日本骨代謝学会

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軟骨細胞のコラーゲン分泌には小胞体ストレスセンサーPERKによる適切なタンパク質翻訳調節が必要である

PERK-mediated translational control is required for collagen secretion in chondrocytes.
著者:Hisanaga S, Miyake M, Taniuchi S, Oyadomari M, Morimoto M, Sato R, Hirose J, Mizuta H, Oyadomari S.
雑誌:Sci Rep. 2018; 8: 773.
  • 小胞体ストレス
  • PERK
  • 破骨細胞

久永 哲

論文サマリー

 すべてのタンパク質は、合成される際に正しい立体構造に折り畳まれて初めて生理機能を持つことができる。コラーゲンなどの分泌タンパク質の合成は、小胞体で行われており、小胞体でのタンパク質の折り畳みがうまくいかない状態を小胞体ストレスと呼んでいる。軟骨細胞は、Collagen type 2 (COL2A1)を始めとした細胞外基質(ECM)を豊富に分泌することから、小胞体ストレスが生じやすいと考えられる。小胞体ストレスにより主要な小胞体ストレスセンサーの一つであるPKR-like endoplasmic reticulum kinase (PERK)は、小胞体ストレスで活性化すると、タンパク質翻訳抑制、小胞体内のタンパク合成に関わるアミノ酸代謝遺伝子やレドックス制御遺伝子の発現増加、さらに過剰な小胞体ストレスでの細胞死誘導など多彩な働きをすることが知られている。しかしながら、軟骨細胞でのPERKの機能解析は十分にされていないことから、軟骨細胞において生理的な条件で活性化されるPERKの役割について検討した。

 最初に軟骨細胞に分化誘導できる軟骨前駆細胞ATDC5を用いて、分化誘導による小胞体ストレス応答関連分子の発現変化を解析した。すると軟骨細胞へと分化に伴って多くの小胞体ストレス応答関連分子の発現上昇が認め、成熟した軟骨細胞では生理的な小胞体ストレスが生じていることが確認できた。次に軟骨細胞でのPERKの機能を解析するために、PERK選択的な阻害剤であるGSK2606414を添加し、細胞内および培地中のCOL2A1の発現を確認したところ細胞内COL2A1のタンパク発現は上昇を認めるのにも関わらず、培地中に分泌されたCOL2A1は低下していることがわかった。さらに免疫染色による細胞内局在の解析から、小胞体からゴルジ体へのCOL2A1の輸送低下と、小胞体内でのCOL2A1凝集により分泌が低下していることを見出した。このことから、PERKによる翻訳抑制が失われると、小胞体での折り畳み能力を越えたタンパク質が合成されてしまい、その結果として生じた折り畳みが不十分なCOL2A1は、細胞内輸送が障害されて分泌されないと考えた。実際に、PERK欠損マウスの脛骨では、軟骨細胞の増殖低下や細胞死増加を認めないのにも関わらず、ECM中のCOL2A1の染色性が低下していることから、上記の仮説を検証することができた。以上の結果から、コラーゲン分泌に伴う生理的な小胞体ストレスで活性化されるPERKによるタンパク質翻訳抑制は、軟骨細胞の機能維持に必須であることが示された。  

 

久永 哲
 PERK欠損マウスは野生型マウスと比べての脛骨でのCOL2A1の低下を認める

著者コメント

 私は整形外科医として臨床経験を積んだあとに熊本大学大学院に入学しました。本研究のテーマである小胞体ストレスの研究をスタートするきっかけは、熊本大学整形外科の水田教授とそれまで共同研究をされていた徳島大学先端酵素学研究所の親泊教授の研究室に、国内留学するチャンスを頂いてからです。基礎研究の知識はあまりなかったこともあり、当初はほとんど結果を出すことができませんでしたが、ご指導いただいた親泊教授をはじめ、実験のサポートをしてくれた研究スタッフのおかげで、研究成果を論文として報告することができ、非常に嬉しく思っています。臨床とは異なる基礎研究の醍醐味も味わうことができ、貴重な経験になりました。現在は熊本大学に戻って臨床も行いつつ、今後も軟骨と小胞体ストレスの関連に関して研究を継続していきたいと思います。(熊本大学整形外科/徳島大学生体機能学分野・久永 哲)