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第2高調波発生顕微鏡とテクスチャ画像情報を用いた骨・軟骨組織の定量形態計測

Quantitative Morphometry for Osteochondral Tissues Using Second Harmonic Generation Microscopy and Image Texture Information.
著者:Saitou T, Kiyomatsu H, Imamura T.
雑誌:Sci Rep. 2018 Feb 12;8(1):2826. doi: 10.1038/s41598-018-21005-9.
  • 骨・軟骨形態計測
  • デジタル病理診断
  • 第2高調波発生顕微鏡

齋藤 卓

論文サマリー

 病理組織形態の数値化から自動診断支援までを行うデジタル病理学は,近年の画像認識技術の革新に伴い発展しつつある分野である.デジタル撮像された画像からコンピュータによる解析を通じて,より客観的でより迅速な画像診断を可能にすると期待されている.本研究では,変形性関節症診断を目的とし,生体内コラーゲン繊維の「質的形態情報」を数値的に表現することで新規の骨・軟骨組織のデジタル評価システムの提案を行った.

 我々は,まず,マウス生体内の骨・軟骨組織形態の観察のために第2高調波発生(Second Harmonic Generation; SHG)顕微鏡を利用した.SHGは非線形光学現象を利用した染色・標識を必要とせずに分子イメージングができる技術であり,発生条件の厳しさから生体内においてはコラーゲンやミオシンなどを選択的に可視化することができる.骨,軟骨の主成分はそれぞれI型,II型コラーゲンであるためにSHGによる組織形態の観察が可能となる.骨と軟骨におけるコラーゲン繊維形態の違いを定量化するために,テクスチャ画像解析と呼ばれる手法によるアプローチを行った.テクスチャ解析は,古くから画像認識の分野で使用されてきた技術であり,近年になってバイオイメージングへの応用が進み,生体組織の分類や状態判別に利用されるようになってきている.我々は,テクスチャ解析の一種であるグレーレベル生起行列を利用した解析法を用いて,骨・軟骨基質を特徴付けるのに最適な解析法を検討した.画像をイメージパッチと呼ばれる局所領域に分割し,パッチ内でテクスチャ特徴量を計算し,その統計情報として画像を表現することで骨と軟骨組織の定量的な識別が可能であることを示した(図).さらに,機械学習による自動分類の精度を検証したところ,90%以上の精度で骨と軟骨の画像が判別可能であるという結果を得た.その後,変形性関節症モデルマウスから得た変性軟骨画像に対して,我々の手法を適用したところ,70%以上の精度での関節症病態の分類が可能となる結果を得た.  

 

 生体組織画像は,分子構造の密集度・方向性・周期性などを反映した多様なパターンを示すことが多い.テクスチャ解析は,元来,複雑な模様を分析する手段として使われてきたものであり,骨・軟骨をはじめとする組織形態の解析に適しているといえる.本研究で得られた結果をもとに,デジタル病理診断の実現へ研究を発展させていきたいと考えている.

 

齋藤 卓
 (A)骨・軟骨組織のSHG像.(B)画像のイメージパッチ分割.(C)イメージパッチにおけるテクスチャ形態計測.

著者コメント

 私の所属する愛媛大学医学部分子病態学講座では同医学部整形外科学講座と共同で変形性関節症のSHGイメージングによる画像診断法の開発を進めてきました(Kiyomatsu et al, 2015).本研究は,共同研究を進める中で生じた骨・軟骨組織の持つ「質感」を定量的に評価する方法はないかという疑問を出発としています.生体組織画像のパターン認識は多くの場合困難を伴います.本研究でも骨と軟骨のパターンの違いはどこにあるのかということを実際の解析の試行錯誤を通じて何度も考えさせられました.私はこれまで数理を専門としてきたため,この研究を始めるまで骨を触ったこともありませんでしたが,共著者をはじめとする先生方に粘り強くお付き合いをいただき研究を遂行することができました.最後に,研究を進めるうえで多大なご支援をいただきました今村健志教授に深く感謝申し上げます.(愛媛大学医学部附属病院先端医療創生センター,愛媛大学医学系研究科分子病態医学講座・齋藤 卓)