日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 山下 美智子

Uhrf1は軟骨細胞分化を制御し正常な骨格形成に必須である

Uhrf1 is indispensable for normal limb growth by regulating chondrocyte differentiation through specific gene expression.
著者:Yamashita M, Inoue K, Saeki N, Ideta-Otsuka M, Yanagihara Y, Sawada Y, Sakakibara I, Lee J, Ichikawa K, Kamei Y, Iimura T, Igarashi K, Takada Y, Imai Y.
雑誌:Development. 2018 Jan 8;145(1)
  • Uhrf1
  • 軟骨分化
  • エピゲノム

山下 美智子

論文サマリー

 軟骨分化は様々な転写因子やホルモンにより細かく制御されており、長管骨の長軸成長を担う内軟骨性骨化において大変重要である。近年、細胞分裂の際のDNAメチル化維持制御因子であるUhrf1 (Ubiquitin-like with PHD and ring finger domains 1)が、癌細胞増殖などに機能を発揮することが報告されている。しかしながら、骨格組織においてはその役割は不明であったため、四肢間葉系細胞特異的Uhrf1KO(Uhrf1ΔLimb/ΔLimb)マウス(以下cKO)を作出し、骨格組織におけるUhrf1の働きについて解析した。

 cKOマウスの外観は四肢長が明らかに短く、関節部位での変形を呈していた。軟X線ではcKO群の四肢長管骨長がControl群に比べ、約31~40%の短縮を認めた。また、組織学的解析ではcKO群の成長軟骨板細胞の柱状配列に乱れを認め、有意な増殖軟骨の面積の減少および肥大軟骨の幅の増加を認めた。さらに、初代培養軟骨細胞を用いた解析においてcKO由来の軟骨細胞では、細胞増殖能の低下とともに分化誘導した際の軟骨基質産生の著明な低下を認めた。軟骨分化マーカーは、Sox9の発現に差を認めないものの、cKO群では、比較的早期の分化マーカーであるCol2a1、Col11a1には発現低下傾向を認めた。一方で、後期分化マーカーであるCol10、Runx2には発現上昇傾向、さらにMmp13には有意な発現上昇がみられた。このことから、Uhrf1遺伝子欠損により軟骨細胞分化が促進され、成長軟骨板における肥大化が進行し、その結果、長管骨長の短縮を認めたと考えられた。さらにRNA-seqの結果からUhrf1KOの軟骨細胞とすでに報告がある造血幹細胞の遺伝子発現変動を比較すると、共通して発現上昇を示したのはわずかに13遺伝子のみであった。RNA-seqとMBD-seqを用いた統合解析を行ったところ、cKO群では発現上昇を認める28遺伝子のプロモーター領域におけるDNAメチル化の減少がみられた。中でもIL-1関連遺伝子であり、軟骨細胞分化に影響を与えることが知られているHspb1に着目し、cKOの軟骨細胞に対しHspb1ノックダウンを行なったところ、Mmp13などの軟骨細胞分化に関与する遺伝子発現異常が救済された。  

 

 今回骨格組織においてUhrf1が細胞増殖のみならず軟骨細胞分化に重要な役割を果たしているという、非常に興味深い結果が得られた。同じUhrf1のノックアウトでも軟骨細胞と造血幹細胞とでは大きな違いが見られ、この結果はUhrf1が細胞種特異的な転写調節を行なっていることを示唆している。Uhrf1はゲノム全体のDNAメチル化状態を制御し、その結果、軟骨細胞においてはHspb1などの細胞特異的な遺伝子の発現を調節することによって軟骨分化および骨格成熟を制御していると考えられた。今後は、Uhrf1によるDNAメチル化制御が如何に細胞種特異的な遺伝子発現制御に繋がるのかについての研究展開が期待される。

著者コメント

 私は愛媛大学肝胆膵・乳腺外科に入局後、プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門の初の大学院生としてメンバーに加わりました。
 基礎研究は全くの初めてで、研究開始当初は右も左も分からない状態でした。そんなある日、四肢特異的Uhrf1ノックアウトマウスの四肢が著しく短い事が分かりました。このマウスが生まれてきた際のラボのメンバーの興奮を目の当たりにして、この研究がスタートしました。
 色々な失敗を重ねながらも、ひとつひとつの実験結果がでることにより少しずつ病態が解明されていくことに、とてもわくわくしました。何ヶ月もうまくいかず心が折れそうになったこともありましたが、その都度助言や励ましを頂き、何とか論文化までこぎつけることができました。ご指導いただきました今井先生をはじめ、共著者の皆様に心より感謝しております。(愛媛大学医学系研究科肝胆膵・乳腺外科・山下 美智子)