日本骨代謝学会

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骨細胞除去による無機リン代謝における影響:骨-腎臓-腸管連関の解析

Effect of Osteocyte-Ablation on Inorganic Phosphate Metabolism: Analysis of Bone-Kidney-Gut Axis
著者:Osamu Fujii, Sawako Tatsumi, Mao Ogata, Tomohiro Arakaki, Haruna Sakaguchi,Kengo Nomura, Atsumi Miyagawa, Kayo Ikuta, Ai Hanazaki, Ichiro Kaneko, Hiroko Segawa and Ken-ichi Miyamoto
雑誌:Frontiers in Endocrinology. 2017 Dec 21;8:359. doi: 10.3389/fendo.2017.00359. eCollection 2017.
  • 骨細胞
  • リン
  • 胆汁酸

藤井 理

論文サマリー

 慢性腎臓病(CKD)におけるリン代謝異常は、心血管障害を惹起し患者の生命予後に影響する重要な事項である。近年の報告から、CKDにおけるミネラル代謝異常は、骨細胞や骨細管ネットワークの機能変化に起因する可能性が示唆されているが、骨細胞のミネラル代謝における役割は明らかにされていない。

 本研究は、ミネラル恒常性維持における骨細胞及び骨細管ネットワークの役割の解明を目的として、1) 骨細胞除去マウス(osteocyte-less マウス;OCLマウス)を、Toxin Receptor-Mediated Cell Knockout (TRECK)法を用いて作成し、ミネラル代謝を解析した。2) Granulocyte colony-stimulating factor (G-CSF)投与により骨細管ネットワークを破断させたマウスを作成し、ミネラル代謝の解析を行った。3)体内リンプールの縮小を検討するために食餌性リンシグナルに対する骨細胞除去の影響を調べた。4)OCLマウス及び高リン食による腸管および肝臓の遺伝子発現解析等を検討した。  

 

 OCLマウスでは、血清fibroblast growth factor 23 (FGF23)及び副甲状腺ホルモン濃度の上昇より前に、腎臓からのリン排泄が促進することを見出した。またリン排泄の促進と同時に、腎臓Klotho発現の著しい低下が認められ、腎臓Ⅱ型ナトリウム依存性リントランスポーター (Npt2a及びNpt2c)タンパク質の発現低下が観察された。さらに、骨細管ネットワーク破断マウスにおいてもリン排泄促進、Npt2aの発現抑制が認められた。また、OCLマウスでは、腸管リン吸収においてNpt2bの発現上昇、ナトリウ依存性リン輸送活性の増大、糞中へのリン排泄抑制、及びカルシウム吸収の著しい低下が確認された。さらに、OCLマウスでは、活性型ビタミンD濃度は正常であるが、活性がビタミンD依存性の腸管カルシウム輸送に関連する分子群の発現に異常が観察された。一方、OCLマウスは,高リン負荷に応答したリン排泄のさらなる亢進や、Npt2a及びNpt2cの発現抑制が認められなかった。さらにOCLマウスと高リン負荷マウスにおいて、FGF15/胆汁酸代謝が影響を受けることで腸管Npt2b発現が制御されている可能性が示唆された。

 以上より、OCLマウスでは、腸管リン吸収の顕著な増加が、腎リン排泄を亢進させ、FGF23-Klotho系シグナルの破綻、胆汁酸およびビタミンD代謝に影響する可能性が考えられた。これらの結果は、骨細胞が、体内リンプールの維持、及び腸管における吸収調節機構に寄与しており、CKDにおける骨細管ネットワーク異常は、リンプール縮小やリン代謝異常の原因になると予想された。

 本論文は、骨細胞が、生体におけるミネラル代謝の司令塔として機能する可能性を提示するものであると考えられる。

藤井 理
Mineral balance in osteocyte-less (OCL) mice

著者コメント

 本論文では骨を中心とした多臓器が奏でるダイナミクスなミネラル、胆汁酸の動きを報告してします。本論文をきっかけに、骨を中心とした栄養代謝の多臓器連関ネットワークの重要性に関心が集まればと思いを馳せます。
 この論文は自身の学位論文であり、研究経験の浅い中、骨細胞の新たな機能を証明する道筋を立てるのには試行錯誤の連続でした。論文を執筆するにあたり、最後まで熱心にご指導頂きました宮本 賢一教授、辰巳 佐和子助教(現、滋賀県立大学・臨床栄養学研究室 教授)、また、研究に携わった多くメンバーに心より厚く御礼申し上げます。(徳島大学大学院・分子栄養学分野・藤井 理)