日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 古家 雅之

骨芽細胞と破骨細胞の細胞間接触が骨リモデリングを制御する

Direct cell-cell contact between mature osteoblasts and osteoclasts dynamically controls their functions in vivo.
雑誌:Nat Commun, 2018 Jan 19;9(1):300.
  • 骨芽細胞
  • 破骨細胞
  • 二光子励起顕微鏡

古家 雅之

論文サマリー

 骨は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が緻密に繰り返されることにより、その強度やしなやかさが維持されている。この過程は骨リモデリングと呼ばれ、これまでに骨リモデリングに関わる因子が複数報告されてきたが、骨芽細胞と破骨細胞が実際にどのようにして互いにシグナルを伝達しあっているのか(細胞同士が直接接触をしてシグナルのやりとりをしているのかどうか)については議論の余地があった。そこで本研究では、組織深部の観察が可能な二光子励起顕微鏡を用いて、生体骨組織内の骨芽細胞と破骨細胞を同時に可視化し、細胞の局在や動き、細胞同士の相互作用の実態を明らかにすることを目的とした。

 まず、骨芽細胞と破骨細胞をそれぞれ異なる色で蛍光標識したマウスを作製し、生体骨イメージング技術を駆使して、マウスが生きた状態で骨芽細胞と破骨細胞を同時に可視化することに成功した。その結果、骨芽細胞と破骨細胞はそれぞれ数十細胞単位で小集団を形成しており、両者は近接していても多くは離れていること、ただ、いくつかの場所では骨芽細胞と破骨細胞が直接接触を行っていることが明らかとなった。また、この細胞間接触の多くは、破骨細胞がシナプス様の細胞突起を骨芽細胞に伸ばすことで形成されており、時間経過とともに細胞間接触が変化する様子が観察された(図1)。  

古家 雅之
図1.生きたままの骨の内部のイメージング画像
骨芽細胞(水色)と破骨細胞(赤色)が直接接触し相互作用する瞬間を捉えることに成功。青色は骨組織。
スケールバー:全体像 300μm、拡大図 20 μm

 

 さらに、この骨芽細胞と破骨細胞の細胞間接触の意義を明らかにするために、骨表面上の酸性領域のみ蛍光がONとなるpH応答性蛍光プローブを活用して、破骨細胞の骨吸収活性も同時に可視化した。その結果、骨芽細胞と接触している破骨細胞では、骨芽細胞と接触していない破骨細胞と比較して、骨吸収が有意に低下していることが分かった。これにより、骨芽細胞と破骨細胞の細胞間接触が骨リモデリングの制御に重要な役割を担っていることが明らかとなった。

 最後に、本研究の実験系を用いて、骨粗鬆症薬として臨床応用されているものの、その作用機序が完全には解明されていない副甲状腺ホルモン(PTH)製剤に注目し、生体骨組織内においてPTH 製剤の間歇的投与が骨芽細胞および破骨細胞に与える影響を解析した。その結果、PTH 製剤投与群では、コントロール群と比較して、骨芽細胞と破骨細胞の細胞間接触が有意に増加し、破骨細胞の骨吸収が抑制されていることが明らかとなった。これにより、PTH製剤が生体内で骨量を増加させる仕組みが細胞レベルで明らかとなった。

著者コメント

 生体二光子励起イメージングは、生体内で起こっている現象をありのまま覗き観ることができる非常に強力な実験系であり、しかもその映像は美しく、多くの人の目を惹きつけます。私は大学院の期間、幸運にも石井教授の教室で研究する機会を与えて頂き、生体骨イメージング研究に携わることができました。しかし実際現場に立ってみると、その華やかさと裏腹にイメージング研究とはなんと泥臭いものか。イメージング系の確立、実際の撮影、撮影データの解析、そのどれもが試行錯誤を繰り返す毎日でした。けれど終わってみれば、苦労に見合った生体イメージングを通してしか得られない研究成果を得ることができたと思っています。
 最後になりますが、ご指導頂いた石井教授と吉川教授、そしてご協力いただいた多く先生方にこの場を借りて感謝申し上げます。(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター整形外科・古家 雅之)