日本骨代謝学会

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がん細胞由来hsa-miR-940は骨転移微小環境においてARHGAP1およびFAM134Aの制御を介し造骨型骨転移を惹起する

Cancer-secreted hsa-miR-940 induces an osteoblastic phenotype in the bone metastatic microenvironment via targeting ARHGAP1 and FAM134A
著者:Kyoko Hashimoto, Hiroki Ochi, Satoko Sunamura, Nobuyoshi Kosaka, Yo Mabuchi, Toru Fukuda, Kenta Yao, Hiroaki Kanda, Keisuke Ae, Atsushi Okawa, Chihiro Akazawa, Takahiro Ochiya, Mitsuru Futakuchi, Shu Takeda, and Shingo Sato
雑誌:Proc Natl Acad Sci U S A. 115(9):2204-2209, 2018
  • 分泌型マイクロRNA
  • 造骨型骨転移
  • 腫瘍微小環境(TME)

橋本 恭子

論文サマリー

 骨は進行がんの好発転移臓器であり、骨転移巣は造骨型、溶骨型といったがん腫特有の骨病変を形成することが知られている。前立腺がんの骨転移巣は、その70%が造骨型骨病変を形成する。骨転移微小環境では、がん細胞は骨芽細胞、破骨細胞、間葉系幹細胞などと相互に作用し合い、造骨型や溶骨型といった骨病変を引き起こすことが知られているが、その詳細な分子機構は未だ十分解明されていない。

 マイクロRNA(以下miRNA)は、標的遺伝子の発現を制御する小分子RNAであり、エクソソームに含有されて細胞外へ分泌され、周囲の細胞の機能を制御することが知られている。そこで我々は、骨転移微小環境において、miRNAを分泌するがん細胞とそのmiRNAを取り込む骨の細胞との相互作用が、造骨型・溶骨型といった骨病変を惹起する可能性を考えた。  

 

 まず、造骨型の骨病変を誘導するヒトがん細胞株(前立腺がん細胞株;C4、C4-2、C4-2B)および溶骨型の骨病変を誘導するヒトがん細胞株(乳がん細胞株;MDA-MB-231-Luc、骨髄腫細胞株;KMS11、U266)から分泌されたmiRNAの網羅的発現解析を行い、造骨型骨病変を誘導する前立腺がん細胞株が積極的に分泌しているmiRNAを8種類同定した。次に、同定された各miRNAをヒト間葉系幹細胞株に過剰発現させたところ、hsa-miR-940が著明な骨分化促進作用を有することを見出した。また、hsa-miR-940の標的遺伝子として、ARHGAP1およびFAM134Aを同定し、これらの遺伝子発現を抑制することにより、骨分化が促進されることも明らかとなった(図1)。

橋本 恭子
橋本 恭子
図1.骨分化を促進するがん細胞由来分泌型miRNAの同定
左:ヒトがん細胞株の培養上清から回収したエクソソーム内のmiRNAの網羅的発現解析
右:miR-940は間葉系幹細胞株の骨分化を促進する(上:ALPassay、下:von Kossa染色)

 さらに興味深いことに、通常は溶骨型骨病変を誘導するヒト乳がん細胞株にhsa-miR-940を過剰発現させ、免疫不全マウスの頭蓋骨上へ移植したところ、造骨型骨病変が誘導された。がん細胞と宿主由来細胞を識別するために、エクソソームマーカーをtdTomatoで標識したhsa-miR-940過剰発現がん細胞株を樹立し、全身でGFPを発現する免疫不全マウスに移植したところ、がん細胞から分泌されたエクソソームの宿主由来細胞への取り込みがin vivoでも観察された。また、エクソソームを取り込んだ宿主細胞において、hsa-miR-940の標的遺伝子(Arhgap1およびFam134a)の発現が低下していることも明らかとなった。これらの所見より、移植したhsa-miR-940過剰発現がん細胞が、移植部に遊走してきた宿主由来間葉系細胞の骨分化をエクソソームを介して誘導することで、造骨型骨病変が形成されることが示された(図2)。

橋本 恭子
橋本 恭子
図2.miR-940過剰発現がん細胞はin vivoで造骨型骨病変を誘導する
左:がん細胞の頭蓋骨上移植マウスモデル
右:形成された腫瘍のマイクロCT画像解析(上)と組織学的解析(下、von Kossa染色)

 以上の結果から、がん骨転移における造骨型骨病変の形成は、がん細胞が分泌するmiRNAによって誘導される可能性が示された。本研究は、骨転移病変の形成に、分泌型miRNAが重要な役割を果たしていることを世界に先駆けて明らかにした研究であり、骨転移の分子機序の更なる解明やmiRNAを標的とする新たな骨転移治療法の開発につながることが期待される。

著者コメント

 私は、東京医科歯科大学のMD-PhD(医学研究者早期育成)コースを利用して、東京医科歯科大学細胞生理学分野にて研究を進めさせていただきました。初歩から丁寧にご指導いただきました、竹田秀前教授、佐藤信吾講師には大変感謝しております。エクソソーム、miRNAという目に見えないものを扱う実験ばかりで心が折れそうなときもありましたが、それが実際に目に見える結果として現れた時は大変感動いたしました。この感動を忘れずに、今後も研究に邁進していきたいと思います。(東京医科歯科大学細胞生理学分野・橋本 恭子)