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ゲノムワイド相関解析で特発性大腿骨頭壊死症の感受性座位発見

Genome-wide Association Study of Idiopathic Osteonecrosis of the Femoral Head.
著者:Sakamoto et.al.
雑誌:Sci Rep. 2017 Nov 8;7(1):15035.
  • 特発性大腿骨頭壊死症
  • 全ゲノム相関解析(GWAS)
  • 感受性座位

論文サマリー

 特発性大腿骨頭壊死症(OsteoNecrosis of the Femoral Head: ONFH)は、大腿骨頭が虚血により壊死する原因不明の難病であり、骨頭圧潰・変形性関節症へと進展し、股関節痛や機能障害を引き起こす。厚生労働省難病研究班による調査の結果、ステロイド治療歴や習慣飲酒歴がONFH発生の関連因子として明らかとなった。しかしながら、骨壊死発生すなわち虚血のメカニズムは未解明である。近年の候補遺伝子研究より、ONFH発生への遺伝的要因の関与が示唆されている。この遺伝的要因を解明するために、全ゲノム相関解析(Genome-Wide Association Study: GWAS)を行った。

 日本人ONFH患者1,602人の臨床情報とDNAサンプルを収集しGWASを施行した(コントロール群にはバイオバンクジャパン由来の60,000検体を使用した)。ONFH発生と強い相関を示すゲノム領域を12番染色体;12q24.11-12と20番染色体;20q12の2カ所に発見した(図1)。  

坂本 悠磨
図1 相関解析の結果
全ゲノム相関解析の結果。横軸はSNPの染色体ごとの位置。SNPを染色体ごとに色分けして示している。縦軸はP値の対数値で示した相関の強さ。赤線(P = 5.0 x 10-8)を超える強い相関を示すゲノム領域が2カ所、同定された。

 

 12q24.11-12の領域は、ONFH発生の関連因子(ステロイド治療歴・習慣飲酒歴)に基づく層別化解析を行った結果、習慣飲酒歴との相関を強く反映していた。文献的考察も含め、アルコール代謝に関わるALDH2がONFH発生リスクに関与することが示唆された。

 20q12の領域は、関連因子の有無に関わらずONFH発生と相関していた。この領域にはLINC01370が存在した。遺伝子の発現解析やビッグデータを用いたインフォマティクス解析の結果、LINC01370は肝臓に特異的に発現し、脂質代謝系・ステロイド代謝系など、以前よりONFHとの関連が示唆されていた代謝系を制御する可能性が考えられた。

 今後、検体数を増やし相関解析の解析力を向上させることで、さらなる領域の発見が期待できる。また、今回発見したLINC01370の機能をさらに詳しく調べることで、分子レベルでのONFHの病態の解明、ONFH進行の予防法や治療薬の開発が進むものと期待できる。

著者コメント

 本研究は、日本医療研究開発機構「難治性疾患実用化研究事業」(福岡大学整形外科山本卓明教授、九州大学整形外科岩本幸英前教授)の支援のもと、厚労省難病研究班参加施設を中心とした多施設共同研究として行われました。本研究結果は、今後のONFH遺伝子解析研究の礎となると思われます。多くの先生方・患者様にご協力いただき、このような成果を得ることができましたことを、心より御礼申し上げます。(九州大学医学部整形外科学教室・坂本 悠磨)