日本骨代謝学会

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COPD男性患者において骨密度とTBSは独立に椎体骨折に関連する

Independent association of bone mineral density and trabecular bone score to vertebral fracture in male subjects with chronic obstructive pulmonary disease
著者:Reiko Watanabe, Nobuyuki Tai, Junko Hirano, Yoshiyuki Ban, Daisuke Inoue, Ryo Okazaki
雑誌:Osteoporos Int. 2018 Mar;29(3):615-623.
  • COPD
  • TBS (trabecular bone scoretbs)
  • 高感度CRP

渡部 玲子
渡部 玲子
渡部 玲子

論文サマリー

 骨粗鬆症はCOPD(chronic obstructive pulmonary diseases)の主要な合併症のひとつである。しかし、その骨代謝異常の病態は明らかになっていない。我々は以前に、日本人COPD男性136人において約80%に椎体骨折の合併がみられることを報告した(Watanabe R, et al. JBMM 33:392, 2015)。本研究ではCOPD合併骨粗鬆症の病態を明らかにするため、同コホートで骨密度およびTrabecular Bone Score (TBS)の規定因子を解析した。

 対象はCOPD男性61例、呼吸機能、椎体骨折、骨密度、TBS、カルシウム代謝関連指標、炎症マーカーを横断的に検討した。  

 

 平均年齢71.1±8.2歳、BMI 21.7±3.9kg/m2、椎体骨折は75.4%、多発骨折は55.7%、SQ grade2/3の骨折は 19.4%に認められた。大腿骨頸部骨密度Tスコアは-1.9±1.2、WHO診断基準による骨粗鬆症は37.7%、骨量減少症は39.9%であった。また、骨密度、TBSともに、GOLD病期進行により有意に低値を示した。SQ grade2/3骨折の有無で多変量ロジスティック回帰分析を行うと、年齢で補正後もTBSと大腿骨頸部骨密度がともに独立の規定因子であった。大腿骨頸部骨密度を従属変数とした重回帰分析では、年齢、BMI、25(OH)D濃度が規定因子であった。一方、TBSには年齢や骨密度、高感度CRP、呼吸機能指標、intactPTH、Tracp-5bが相関し、TBSを従属変数とした重回帰分析では、年齢や骨密度とともに高感度CRPが独立の規定因子であった。

 本検討により、男性COPDにおいて骨密度とTBSがそれぞれ独立にSQ grade 2/3の重篤な骨折に関与することが明らかになった。大規模な疫学データでCOPDはTBS低値に関連する因子の一つであることが報告されているが、COPDに合併する骨折や骨粗鬆症病態との関連は不明である。本検討によりCOPD患者の骨折にTBS低下が関与することが初めて明らかになった。

 また、原発性骨粗鬆症と同様、COPD合併骨粗鬆症の骨密度の低下には低体重の関与が最も強く、ビタミンD不足も関連していた。一方、高感度CRPの高値がTBS低下に関与することが初めて明らかになった。COPDの病態形成の機序として、肺局所の炎症は全身へ波及し、骨粗鬆症を含めた様々な全身併存症に関連すると考えられている。このような全身性炎症がもたらす骨脆弱性、特にTBSに反映される海綿骨微細構造の劣化は、続発性骨粗鬆症に共通した機序の一部である可能性も示唆される。

著者コメント

 私たちの施設では、生活習慣病に関連する骨代謝異常について、動脈硬化、COPD、糖尿病の3つの病態をテーマに臨床研究を行っています。2011年から始めたCOPD関連骨粗鬆症に関する研究は、症例集めから論文化まで試行錯誤しながら取り組んだ最も初期の思い出深い研究です。「臨床研究っておもしろそう」となんとなく考えていた頃、当研究室と出会い、良き指導者に恵まれたことが私の大きな転機になりました。近隣の鎗田病院や当院の呼吸器科の先生方にもたくさんのご協力をいただきました。少ないスタッフでも日々の診療の中でコツコツ研究を進められる現在の環境にとても感謝しています。実臨床で生まれる疑問を大切に、今後も研究活動に邁進していきたいと思います。(帝京大学ちば総合医療センター第三内科・渡部 玲子)