日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 久木田 敏夫

IL-1βは高度な吸収活性を有する病的活性化破骨細胞を誘導する:キンドリン3とタリン1の発現が抑制された病的破骨細胞サブポピュレーション

IL-1β Induces Pathologically Activated Osteoclasts Bearing Extremely High Levels of Resorbing Activity: A Possible Pathological Subpopulation of Osteoclasts, Accompanyied by Suppressed Expression of Kindin-3 and Talin-1
著者:Shiratori T, Kyumoto-Nakamura Y, Kukita A, Uehara N, Zhang J, Koda K, Kamiya M, Badawy T, Tomoda E, Xu X, Yamaza T, Urano Y, Koyano K, Kukita T.
雑誌:The Journal of Immunology, 2018, 200: 218-228.
  • IL-1
  • 破骨細胞
  • 病的骨破壊

久木田 敏夫
九大・歯・解剖 (前列左から 久本、久木田、山座、後列左から 友田、張、上原、Badawy)

久木田 敏夫
九大・歯・インプラント補綴 (左端 白鳥、左から3番目 古谷野)

久木田 敏夫
東大・浦野研 (左から 浦野、國府田、神谷)

論文サマリー

 活発な骨改造によって骨の健康は維持される。破骨細胞は骨改造の主役を演じており、破骨細胞による骨吸収により骨改造が開始される。破骨細胞は骨吸収に特化した細胞であるが、骨芽細胞の分化誘導、血管新生等の役割や造血幹細胞の維持にも関与しており生体恒常性の維持に於いても重要な役割を担っていることが明らかになってきた。近年、破骨細胞を標的とする優れた骨吸収制御剤が開発され広く使用されているが、正常な破骨細胞にも作用する為、破骨細胞の持つ生体恒常性維持能を損なう可能性も懸念されている。正常な破骨細胞には作用せず、炎症等に伴う病的骨吸収を起こす破骨細胞のみを制御する次世代型の骨吸収制御法の開発が必要となってきた。我々は炎症性の骨破壊に関与する破骨細胞、即ち病的活性化破骨細胞(PathologicallyActivatedOsteoclast:PAOC)が正常破骨細胞とは若干異なる細胞集団(サブポピュレーション)を形成すると考えており、正常破骨細胞とPAOCの相違点を見出し、PAOCを特異的に制御する新規方法論の開発を目指している。

 今回、PAOCの形成条件を検討したところ、古典的な炎症性サイトカインIL-1βの存在下に形成された破骨細胞が顕著な骨吸収能を示し、更に酸感受性蛍光プローブRhPMを用いた破骨細胞プロトン産生能の検討により、IL-1β存在下に形成された破骨細胞が顕著なプロトン産生能を有することがわかった。これらの結果から、本条件で形成された破骨細胞をPAOCと仮定した。PAOCと正常破骨細胞の分子マーカーを比較検討したところ、基本的なマーカー分子の発現レベルはほぼ同等であった。正常破骨細胞の最終分化にはインテグリンβ鎖の活性化が必須である。インテグリンβ鎖活性化の鍵分子であるインテグリン制御蛋白キンドリン3及びタリンの発現を検討したところ、正常破骨細胞に比べ、PAOCでは両分子の発現が顕著に抑制されていることが分った。細胞表面分子を解析したところ、IL-1βによって誘導されるPAOC特有の膜表面分子が存在することが分った。本研究により、PAOCが正常破骨細胞とは少し異なる細胞集団を形成する可能性が示唆された。PAOC特異的表面分子の同定が今後の重要課題である。本研究はPAOCのみを標的とする次世代型の骨吸収制御剤の開発につながるものと思われる。本研究は東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻生体情報学分野・浦野泰照先生との共同研究です。(九州大学大学院歯学研究院分子口腔解剖学分野・久木田 敏夫)  

久木田 敏夫
久木田 敏夫
久木田 敏夫

著者コメント

 本研究は私にとって初めて携わらせていただいた研究であり、この研究を通じてポスター発表、口演での学会発表、そして論文作成まで貴重な経験をさせていただきました。細胞を扱うのも初めてのことだったので、研究がスタートした時は細胞培養と細胞数のカウント練習をひたすら繰り返し、実験に必要な基本的手技を身につけた思い出があります。結果が出ない時期が長かった分、研究結果が出たときの嬉しさは今でも忘れられません。研究指導をして下さった九州大学・久木田敏夫先生、蛍光プローブの作製・指導をして下さった東京大学・浦野泰照先生、また分子口腔解剖学講座への出向を許可して下さった九州大学・古野谷潔先生、そして多くの先生方にご指導していただいたおかげで論文を完成させることが出来ました。この場をお借りして御礼申し上げます。大学院で学んだ事を臨床に活かし、少しでも患者さんの役に立てるよう日々精進していきたいです。(九州大学大学院歯学府口腔機能修復学講座インプラント義歯補綴学分野/九州大学大学院歯学府口腔常態制御学講座分子口腔解剖学分野/医療法人社団 有心会 クリア歯科東京院・白鳥 卓麻)

 本研究を進める中で、初めて走査型電子顕微鏡を使用しました。電顕で初めて象牙質切片上で破骨細胞の骨吸収窩を鮮明に観察できたとき、さらにIL-1β刺激群で骨吸収が亢進していることが見た目からも明らかだったときは、この研究を進める上で非常に重要なデータでしたので共著者の白鳥先生と一緒に大変喜んだことを覚えています。多くの先生方のご協力のもと、今こうして研究成果が発表できたことを本当に嬉しく思います。しかしながら、まだ解明しなければならないこともありますので、今後もより詳細な解析を進め、新たな知見を発表できるよう地道に研究に取り組んで参りたいと思います。(九州大学大学院歯学研究院分子口腔解剖学分野・久本 由香里)