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経口投与されたビタミンD3化合物による腸管カルシウム吸収の促進:骨粗鬆症におけるオープンラベル無作為化前向き試験

Stimulation of intestinal calcium absorption by orally administrated vitamin D3 compounds: a prospective open-label randomized trial in osteoporosis.
著者:Uenishi K, Tokiwa M, Kato S, Shiraki M
雑誌:Osteoporos Int. 2018 Mar;29(3):723-732.
  • 腸管カルシウム吸収率
  • ビタミンD3化合物
  • 骨粗鬆症

白木 正孝

論文サマリー・著者コメント

[緒言]
 我が国において骨粗鬆症治療に用いられる活性型ビタミンD3の腸管カルシウム吸収能に及ぼす影響については報告がない。活性型ビタミンD3を投与すると尿中カルシウム排泄が増加することはよく知られていたが、この時骨吸収は亢進しないので、尿中カルシウムの増加は腸管からのカルシウム吸収の増加によってもたらされるのであろうと想像されていた。

[目的と方法]
 各種のビタミンD3化合物を骨粗鬆症患者に投与し、無治療例を対照群として腸管からのカルシウム吸収率(Fractional calcium absorption: FCA)を比較した。40名の骨粗鬆症患者を無作為に4群にわけ、無治療の対照群、天然型ビタミンD3800IU (Plain D3 800IU, 20μg)/日、ワンアルファカルシドール(ALF 1μg)/日、エルデカルシトール(ELD 0.75μg)/日を投与し、一ヶ月間経過観察した。治療前後で腸管からのFCAをdouble isotope法で測定し、血中カルシウム代謝と尿中カルシウム、リン排泄および骨代謝マーカーの測定を行った。

[結果]
 各治療群間の基礎検査所見に差はみられず、無作為化は問題なく行われていた。治療前のFCAは40例の骨粗鬆症患者において21.5±7.9% (mean±SD)であり、この値は過去の報告と同等であった。また治療前のFCAは1,25(OH)2Dの血中濃度と有意の正相関を示した(図1a)。この有意な関係は他の因子を調整した後でも有意であり。治療前の1,25(OH)2DはFCAの独立した制御因子であることが示された(表1)。治療後のFCAはELD 群で治療前値から59.5%、ALF群で45.9%増加したが、Plain D3群や対照群では変化はみられなかった(図2)。治療後のカルシウム代謝は25(OH)D値がplain D3でのみ有意に増加。1,25(OH)2D値はplain D3群で前値に比し有意に増加(+17pg/ml)。ELD群では低下の傾向(-13pg/ml)。PTHはALFとplain D3で前値よりも低下。結果的に治療後のFCAは1,25(OH)2Dでは制御されていなかった(図1b)。これらの結果をまとめたものが表2である。

白木 正孝
図1a Baselineにおける血中1,25(OH)2D値とFCAの関係

白木 正孝
表1 投与前FCAの決定要因(多変量解析)
Baselineにおける腸管カルシウム吸収能は1,25(OH)2Dにより決定されている。尿カルシウム排泄量との相関は結果と思われる。BUNとの関連はmarginalなので偶然である可能性もある。

白木 正孝
図1b 治療後における血中1,25(OH)2D値とFCAの関係

白木 正孝
図2 治療後のFCAの変化

[考察と雑感]
 活性型ビタミンD3製剤と総称されるELDやALFが骨粗鬆症患者の腸管のFCAを促進することが初めて示された。促進度は約50~60%で、実測のFCAは治療後ELDで33.7%, ALFで30.2%であった。このことは想定内であったが、問題はELDやALFのFCA促進機序である。表2に示すようにビタミンD3化合物のFCAに対する効果は1,25(OH)2Dへの作用とdissociationしていた。

白木 正孝
表2 ビタミンD化合物投与後の血中ビタミンD代謝物濃度とFCAの間の複雑な関係
Baselineにおける腸管カルシウム吸収能は1,25(OH)2Dにより決定されている。尿カルシウム排泄量との相関は結果と思われる。BUNとの関連はmarginalなので偶然である可能性もある。

 腸管からのカルシウムの吸収にはビタミンDがVDRに結合して、粘膜側のcalcium channelであるTRPV6を開き、カルシウムが細胞内に流入するとVDR依存性蛋白であるCalbindin-D9Kがカルシウムバッファーとなり漿膜側に運ばれ、VDR依存性Ca++ ATPaseであるPMCA1が活性化されてカルシウムは血中に放出される。すなわち、小腸のカルシウム吸収の全過程はビタミンD依存性である(図3)。

白木 正孝
図3 腸管からのビタミンD依存性カルシウム吸収機序

 この過程は反転腸管法で検討されてきた。すなわち腸管を切り出し、漿膜面と粘膜面を裏返して粘膜面を外側に、漿膜面を内側にして両端をしばりサック状にする。サックの内部(漿膜)に1,25(OH)2D3を封入し。サックの外部の粘膜面にはトレーサーCaを含んだ培養液でincubationする。漿膜面の1,25(OH)2Dが作用すると粘膜面にあるトレーサーCaが吸収されて漿膜面にでてくる。この結果、漿膜面からアプローチした1,25(OH)2Dが粘膜面でカルシウム吸収を増加させることが証明できる。今回のbaseline dataはまさに反転腸管法を反映している。つまり漿膜面(流血中)の1,25(OH)2DがFCAを調節している。しかし、治療後の反応は1,25(OH)2Dが漿膜面から作用するという従来の考え方では全く説明できない。ちなみにBaselineのFCAと1,25(OH)2Dの相関式に治療後の1.25(OH)2Dの値を代入してFCAの値を推定してみたものが表3である。つまりELDとALFには実測値と予測値の間におおきなgapがあった。一方plain D3については予測と実測とはほとんど同程度であった。このplain D3は測定値からみる限り十分に1,25(OH)2Dを増加させているように見えるが、実際にはこの程度の1,25(OH)2Dの上昇ではFCAは増加しないことが明らかであった。plain D3でFCAをELDやALFなみに増加させるためには、計算上では今回の投与量の倍である1600IUは必要ということになる。Plain D3の投与量に関して、最近の欧米でのトレンドは使用量をもっと増加させよ、というものであるが、今回の検討で図らずもその議論の後付けができた。

白木 正孝
表3 FCAと1,25(OH)2Dとの関係:推定値と実測値のGap
活性型ビタミンD3では実測値と推定値の差が大きい

共同著者の加藤や上西とこの問題をメールで討論していた時、何の気なしにELDやALFは代謝を経ずにVDRに結合しますかね?と疑問を投げかけたところ、化合物のVDRへのaffinity は1,25(OH)2Dを対照とするとplain D3はaffinity 0, ALFは1/1000、ELDは約半分であることから考えても、ALFやELDがμg単位投与されれば十分にVDRを活性化することが考えられた。とくにELDはその構造式のなかにすでに1位と25位に水酸基を有しているので、代謝を経ずしてVDRに結合することは十分に考えられる。さらにASBMRにこの演題を提示したところ、質問者から腸肝循環の問題はどうか、との質問を受けた。周知のようにALFは肝臓で25位が水酸化されて1,25(OH)2D3となるので、この腸肝循環の仮説を取り入れるとALFは代謝を経ず、直接VDRに非効率的ではあるが結合する画分と腸肝循環を経て結合する画分、および肝臓で1,25(OH)2D3となって(ALF投与後20%ほど増加する)流血中から漿膜面に達し、結合するという、三つの過程があり得ると想像された。つまりELDは腸管の粘膜面から直接VDRに作用でき、ALFは種々の代謝過程を経る経路と直接作用の混合したVDR発現作用で説明され、一方plain D3はあくまでも体内で活性化されてから漿膜面から作用するものと推定された。

 さらに文献検索を行ったところ、Saito and Harada の論文に遭遇した。この文献(J Steroid Biochem Mol Biol 144: 189-196, 2014)では種々の臓器で経口投与された1,25(OH)2D3とELDのVDR活性化の程度を検討したものであるが、腸管のVDRの活性化度だけが際立って1,25(OH)2D3と近似していた。この論文もまた、ELD の腸管への直接作用という考え方を強力にサポートしてくれた。

 同時に測定した、PTH(副甲状腺に対する効果)、骨代謝マーカー(骨に対する効果)は従来のEvidenceをほぼ踏襲していた。つまり経口投与されたELDやALFの遠隔臓器効果はpharmacokineticsで証明された通りの効果を示しており、腸管作用の強力さとは異なっていた。

 本論文は共著者が一堂に会して討論するという作業は行っていない。全ての計画と測定、論文化の作業は各担当者がメールで共著者と討議しながら作業が行われた。研究の企画は上西と白木が行い、患者の管理データの品質保証および統計解析は常葉を中心としたIDD社が行い、Stable isotopeの調整と測定管理は上西が担当した。理論的な討論とASBMRでの情報収集は加藤が行った。文責は白木が担当した。このほかにもstable isotopeの薬品化と安全性試験、検体検査、カルシウム吸収試験の実施、資金援助など多方面の方々の非常に精度の高いご協力があってこの研究が成就した。ここに改めて御礼申し上げる。この研究がこの分野に多少の論議を呼べれば幸せである。(成人病診療研究所・白木 正孝)