日本骨代謝学会

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HIV共受容体CCR5は破骨細胞の機能を調節する

The HIV co-receptor CCR5 regulates osteoclast function.
著者:Lee JW, Hoshino A, Inoue K, Saitou T, Uehara S, Kobayashi Y, Ueha S, Matsushima K, Yamaguchi A, Imai Y, Iimura T
雑誌:Nat Commun. 2017 Dec 20;8(1):2226
  • 破骨細胞
  • CCR5
  • 骨粗鬆症

李 智媛

論文サマリー

 CCR5は、リンパ球の細胞表面に存在するたんぱく質分子の一つで、リンパ球の移動に関与します。また、HIVはこのCCR5を認識してリンパ球細胞に感染します。CCR5の設計図であるCCR5遺伝子に欠損のある方々はCCR5たんぱく質を作れませんが、HIVに感染しにくいことが知られており、CCR5阻害薬(製品名 Maraviroc マラビロック)は、現在、HIV感染患者の延命に大きく貢献しています。一方で、CCR5阻害薬の長期服用が、高齢化に伴う運動器疾患(いわゆるロコモーティブ・シンドローム)にどのように影響を与えるのかが問題となってきていました。

 私たちは、培養したヒトの破骨細胞(骨を溶かす細胞)と骨芽細胞(骨を作る細胞)にCCR5阻害剤を投与し影響を見ました。すると、破骨細胞の骨を吸収する機能が阻害され、骨芽細胞の骨を作る能力には影響がないことが観察できました。

 これまで、CCR5遺伝子に欠損のある方々はHIV感染に対する抵抗性があることとともに、リウマチに対する抵抗性もあるという臨床報告がありました。しかしながら、リウマチとの相関に関しては反論する論文も多数報告されました。また、マラビロック服用患者は、それ以外のHIV治療薬服用患者と比べて骨粗鬆症になりにくいという臨床報告もありました。本研究の成果は、CCR阻害薬の服用は、HIV感染のみならず、骨粗鬆症のような骨吸収性疾患に対しても抵抗性を示すことを実験医学的に証明しました。

李 智媛
CCR5を介した分子シグナルと破骨細胞の機能調節メカニズム
CCR5はリガンドであるCCL5に結合することで破骨細胞に刺激を加える。その際に、破骨細胞分化誘導因子であるRANKLやインテグリンという細胞接着分子を介した細胞内シグナルと協調して、破骨細胞の形、骨への接着、骨の表面での細胞の動き、さらには骨の吸収を正常に働かせる。

著者コメント

 ずっと基礎研究を行って来ましたが、今回の論文では臨床研究との関連が深い成果を上げることができたかなと思っています。また、様々な顕微鏡を使った組織や細胞レベルの観察や超解像顕微鏡での観察が、分子レベルでも説明できるような結果が出て良かったと思っています。
 共著者である、松本歯科大学の小林教授、上原先生、東京大学医学系研究科の松島教授、上羽先生、東京警察病院の星野先生、東京歯科大学の山口教授に感謝の意を表します。また、本学プロテオサイエンスセンター(PROS)の飯村教授と今井教授、井上先生、斉藤先生に厚く御礼申し上げます。(愛媛大学プロテオサイエンスセンター(PROS)バイオイメージング部門・李 智媛)