日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 右藤 友督、黒嶋 伸一郎

ラット上顎骨に埋入されたインプラントへの規則的繰り返し荷重が,インプラント周囲の骨質に与える影響

Effects of mechanical repetitive load on bone quality around implants in rat maxillae
著者:Yusuke Uto, Shinichiro Kuroshima, Takayoshi Nakano, Takuya Ishimoto, Nao Inaba, Yusuke Uchida, Takashi Sawase
雑誌:PLoS One. 2017 Dec 15;12(12): e0189893.
  • 荷重応答性骨質制御因子
  • デンタルインプラント
  • Semaphorin3A

右藤 友督、黒嶋 伸一郎

論文サマリー

 米国国立衛生研究所(NIH)により提唱された「骨質」とは,骨関連細胞やコラーゲン線維などによって構成される新しい概念である.今まで我々は,新規概念の「骨質」をパラメーターとして,脛骨に埋入されたデンタルインプラント周囲骨の組織形態学的解析を行い,荷重が骨質を動的に制御することを明らかにしてきた.一方,Semaphorin3A(Sema3A)は骨関連細胞の調節因子として骨の保護作用に関与することが報告されている.本研究は,長管骨ではなく,本来インプラントが埋入される上顎骨を用い,インプラントへの規則的な繰り返し荷重が,インプラント周囲骨組織におけるSema3A産生に与える影響,ならびに骨関連細胞とコラーゲン線維を要素とする「骨質」に及ぼす影響を解明することを目的とした.9週齢ラットの上顎第一大臼歯を抜歯し,4週間後にグレードⅣチタン製スレッド型インプラントを埋入した.骨治癒過程の影響を排除するため,埋入から3週間の免荷期間を設定し,インプラントへの規則的繰り返し荷重(10N,3Hz,1800回,2日/週)を5週間付与した.MicroCT撮影で骨構造と骨密度(BMD)を計測した.また,Sema3Aの産生,ならびに骨関連細胞とコラーゲン線維への影響を,組織形態学的,免疫組織化学的,複屈折測定システムによるコラーゲン線維の配向性測定により解析した.なお,荷重への応力が集中するインプラントネック部の第一スレッド,第二スレッドをそれぞれスレッドA,スレッドBと定義し,それらを解析範囲とした.規則的な繰り返し荷重はBMDを有意に増加させたが,骨量は変化しなかった.またスレッドBにおいて,規則的な繰り返し荷重は,Sema3Aの産生増大と骨芽細胞数や骨細胞数の増加に加え,タイプⅠとタイプⅢコラーゲンの産生増大をもたらした.一方,スレッドAでは荷重による有意な変化を認めなかった.更に,規則的な繰り返し荷重は,スレッドB下縁に対するコラーゲン線維の優先配向を誘導していた.これらの結果から,インプラントへの規則的な繰り返し荷重がSema3A産生と骨質に与える影響は,スレッドAとBで異なるということが明らかとなった.ラット上顎骨において,規則的繰り返し荷重によるSema3Aの産生は,骨構造や骨組織への応力分布の相違により制御され,インプラント周囲骨組織の骨質を調節していることが示唆された.

著者コメント

 インプラント歯学において,骨とインプラントの直接結合であるオッセオインテグレーションの向上を目的とした研究が長らく行われ,今日のインプラント治療は高い成功率を誇るものとなりました.これからの研究では,オッセオインテグレーションを獲得したインプラントが口腔機能を担いながらより長期的に安定する術を見出すことが,患者のQOL向上を図るうえで最大の貢献であると考えています.本研究がインプラント歯学における骨質研究の基盤構築に繋がり,臨床的により良いインプラントの開発,術式の向上,骨質評価方法の開発に貢献できればと思っています.(長崎大学 口腔インプラント学分野・右藤 友督、黒嶋 伸一郎)