日本骨代謝学会

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アクチン結合タンパク質PPP1r18は破骨細胞の成熟、アクチンリング形成および骨吸収活性を制御する

The actin-binding protein PPP1r18 regulates maturation, actin organization, and bone resorption activity of osteoclasts.
著者:Takuma Matsubara, Shoichiro Kokabu, Chihiro Nakatomi, Masayuki Kinbara, Toshihiro Maeda, Mitsuhiro Yoshizawa, Hisataka Yasuda, Teruko Takano-Yamamoto, Roland Baron, and Eijiro Jimi
雑誌:Molecular and Cellular Biology, 2018 Jan 29;38(4). pii: e00425-17.
  • 破骨細胞
  • c-Src
  • PPP1r18

松原 琢磨
現在のラボメンバー
筆頭責任著者・松原(中央)と共著者の古株准教授(右)、中富大学院生(左)

論文サマリー

 破骨細胞が骨吸収を行う際にはアクチンリングと呼ばれる特徴的な細胞骨格構造を形成する。アクチンリング形成にはチロシンキナーゼc-Srcが必須であることが明らかにされているが、どのようにしてアクチンリング形成が制御されているかには不明な点が多く残されている。恒常活性型c-Srcをc-Src遺伝子欠損マウス由来の線維芽細胞株SYF細胞に過剰発現するとストレスファイバーが消失し、ドット状のアクチン構造であるポドソームが細胞中に形成され、細胞によってはアクチンリング同様のリング構造をとる。そこで我々はこの現象を利用し、質量分析法によりc-Srcと結合する分子の同定を試み、アクチンおよびprotein phosphatase 1 (PP1)と結合するが機能的に未知な分子PPP1r18を見出した。まず、in vitroにおけるPPP1r18の発現を検索した結果、PPP1r18は破骨細胞の分化にともない発現量が減少していた。発現量の減少は認めたもののPPP1r18は破骨細胞アクチンリングに局在していた。この結果より、PPP1r18はアクチンリング形成に何らかの関与があることが考えられた。次に破骨細胞におけるPPP1r18の機能を検討するためにアデノウイルスシステムを用いて破骨細胞に過剰発現した。その結果、PPP1r18の過剰発現はアクチンリング形成を阻害しさらには骨吸収活性も抑制した。さらにPPP1r18の機能的役割を探索するためにPP1結合部位を変異したPPP1r18変異体を作成したところ、PPP1r18変異体は野生型PPP1r18とは異なり過剰発現してもアクチンリング形成および骨吸収機能には影響を及ぼさなかった。この結果より、PPP1r18のアクチンリング形成調節機能にはPP1との結合が重要であることが示唆された。さらにPPP1r18によるアクチンリング形成制御の分子メカニズムを検討した結果、PPP1r18はc-Srcの17番目のセリンの脱リン酸化することにより、c-Srcと c-Srcの既知の下流分子であるCortactinとの結合および、チロシンリン酸化を制御することを示唆するデータを得た。これらの結果より、PPP1r18はPP1と結合しc-Srcの機能を負に制御することによりアクチンリング形成を阻害していることが示唆された。

松原 琢磨
PPP1r18がProtein phosphatase 1のphosphataseユニット(PPP1CA)をリクルートすることにより、c-Srcが誘導するアクチンリング形成およびその後の骨吸収を負に制御する。

著者コメント

 このプロジェクトはc-Srcと協調して破骨細胞機能を活性化する分子を探索する目的で始めました。しかし、いざ蓋を開けてみると、逆にc-Srcの機能を負に制御する分子が見つかりました。はじめの計画とは違った結果になりましたが面白い結果が出たので、これは研究の面白さだと思います。本研究を遂行するにあたり、指導して頂きましたRoland Baron先生、山本照子先生、自見英治郎先生と研究をサポートしていただいた諸先生方に厚く御礼申し上げます。また、Skeletal Science Retreatでの議論により本研究を良いものにできたと思います。オーガナイザーの先生方と意見をいただいた先生方に厚く御礼申し上げます。(九州歯科大学分子情報生化学分野・松原 琢磨)