日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > Kevin Mongtagne

過大静水圧刺激は軟骨前駆細胞において変形性関節症発症に関連する遺伝子発現に影響を及ぼす

High hydrostatic pressure induces pro-osteoarthritic changes in cartilage precursor cells: A transcriptome analysis.
著者:Montagne K, Onuma Y, Ito Y, Aiki Y, Furukawa KS, Ushida T.
雑誌:PLoS One. 2017 Aug 16;12(8):e0183226
  • 変形性関節症
  • 軟骨細胞
  • 静水圧

Kevin Mongtagne

論文サマリー

 変形性関節症の発症メカニズムについては,多くの基礎および臨床研究が行われており,複数の要因が複合して発症すると考えられている.それら要因の一つがoverweightである.すなわち過大な圧縮応力が関節軟骨に負荷されることが,発症要因の一つであると考えられている.関節軟骨に圧縮応力が負荷されると,軟骨細胞そのものには複数の物理的な刺激が負荷される.マトリックスが圧縮(ひずみ)されることによる軟骨細胞の変形,interstitial flowによるshear stressの他,静水圧が負荷されることが知られている.これは軟骨組織は含水性の高い組織であり,マトリックスに配向した水分子が粘性抵抗となり,圧縮応力により軟骨組織内に静水圧が惹起されると考えられている.本研究は,この静水圧という物理量そのものが,変形性関節症発症に果たして関与しているかどうかin vitroで検証することを目的とした.

 マウス軟骨前駆細胞ATDC5を用い,25MPaのstaticな静水圧を1, 4, 24 h負荷した細胞群と無負荷のコントロール群とをマイクロアレイ(27,122 m-RNAs, 4,578 long non-coding RNAs)にかけ,遺伝子発現プロファイルを比較した.その結果,heat shock, cell death, stress responseに関わる遺伝子群がup-regulation, RTK signaling, GPCR signaling, chondrogenesisに関わる遺伝子群がdown-regulationされているのが分かった.さらに有為にup-またはdown-regulationされている遺伝子の中で重要な遺伝子について,Quantitative RT-PCRにより定量的に検証した.その結果,骨・軟細胞分化において重要な転写因子であるSOX9,関節軟骨における主要なマトリックスであるCollagen type2, Aggrecanの遺伝子発現が大幅に低下することが分かった.一方,Aggrecan分解酵素をコードするAdamts5の発現のup-regulation, コラーゲン分解関連の酵素であるMMP-1, MMP-13の発現を抑制するtranscrptional co-activatorであるCited2のdown-regulationなど,複数の遺伝子が軟骨組織のdegradationを促進する方向に発現変化を起こしていることが分かった.また,Ddit3やGadd45aなどcell growth arrestに関連する遺伝子がup-regulationされていることも分かった.これらのことを総合すると,in vitroでの検証ではあるが,過大な静水圧負荷は,その物理量単独で変形性関節症の発症のトリガーの一つになり得ると考えられる.

著者コメント

 これまでの数年間,軟骨細胞の静水圧に対する応答をシグナル伝達,遺伝子発現に絞って探ってきました.これまでは遺伝子を個別に検討していましたが,今回のマイクロアレイ実験で軟骨細胞の静水圧に対する応答,特に遺伝子発現に及ぼす効果を統括的に探ることができました.フランスで博士研究を行っていた時もマイクロアレイを利用したことがありましたので,とても懐かしい思いがいたしました.本研究は,産業技術総合研究所のチームの協力無しには実現できませんでした.ここに,心より感謝致します.メカノバイオロジーはまだ比較的新しく,物理と細胞生物学,分子生物学をリンクさせる困難な分野ではありますが、変形性関節症のメカニズムの解明にささやかながら寄与していきたいと願っております.(東京大学大学院工学系研究科 機械工学専攻・バイオエンジニアリング専攻・Kevin Mongtagne)