日本骨代謝学会

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軟骨肉腫細胞においてTGF-βシグナルとPEG10は互いに排他的で抑制的である

TGF-β signalling and PEG10 are mutually exclusive and inhibitory in chondrosarcoma cells.
著者:Shinohara N, Maeda S, Yahiro Y, Sakuma D, Matsuyama K, Imamura K, Kawamura I, Setoguchi T, Ishidou Y, Nagano S, Komiya S.
雑誌:Sci Rep. 2017 Oct 18;7(1):13494.
  • 軟骨肉腫
  • TGF-βシグナル
  • PEG10

前田 真吾

論文サマリー

 軟骨肉腫とその良性カウンターパートの内軟骨腫は、組織学的所見はしばしば酷似するため鑑別が困難で、鑑別分子マーカーの同定が期待される。一般に腫瘍細胞の悪性度と分化度は反比例するので、軟骨肉腫と内軟骨腫の臨床組織サンプルを用いて軟骨細胞分化マーカーの発現を定量的RT-PCR(RT-qPCR)で検討したところ、確かに実際にSOX9はgrade I軟骨肉腫において内軟骨腫より有意に発現低下しており、COL2A1はgrade Iよりgrade II軟骨肉腫で減少していた。そこで、軟骨細胞分化マーカーの発現誘導シグナル関連分子が鑑別因子となり得ないか検討した。骨形成タンパク(BMP)を含むtransforming growth factor (TGF)-βファミリー・シグナルは軟骨細胞分化に密接に関わっているので、それぞれのシグナル下流メディエーターであるSMAD1/5とSMAD3のリン酸化(活性化)レベルを免疫組織化学染色(IHC)で調べた。しかし意外にもリン酸化(p)SMAD3は内軟骨腫よりgrade I、さらにgrade Iよりgrade IIの軟骨肉腫で発現が増強し、pSMAD1/5もgrade Iよりgrade IIで増えており、SOX9/COL2A1発現量と逆相関を呈した。そこでTGF-β/BMPシグナルのリガンド、受容体、そしてSMADs自体の発現をRT-qPCRで調べたが、これらが内軟骨腫サンプルで少なくとも発現減少している訳ではなく、したがって内軟骨腫においてはTGF-β/BMP-SMADs経路を抑制する何らかの分子が増えていると予想した。現状で内軟骨腫の細胞株は存在しないので、無刺激状態のヒト軟骨肉腫細胞株SW1353とHs 819.Tを内軟骨腫またはlow grade軟骨肉腫の近似モデルとし、軟骨肉腫でpSMAD3が増えていたのでこれにTGF-β1刺激した状態をhigh grade軟骨肉腫モデルとして、ヒト正常軟骨細胞株C28/I2と比較してマイクロアレイ解析を行った。SW1353/Hs 819.Tで発現が高くTGF-β1刺激で減少する遺伝子を検索したところ、paternally expressed gene 10 (PEG10)が同定された。PEG10蛋白の発現をIHCで観ると、内軟骨腫サンプルで強く、grade I軟骨肉腫で有意に減少し、grade IIでさらに減弱し、すなわちSMADs活性とPEG10発現は逆相関した。細胞株において、TGF-β1はin vitroでPEG10発現を抑制した。逆に、TGF-βおよびBMPシグナルのルシフェラーゼ・レポーター・アッセイでは、PEG10は両者を抑制し、PEG10ノックダウンは内因性のpSMAD3およびpSMAD1/5のレベルを増加させる事がウエスタン・ブロットで確認できた。以上の結果から、PEG10とpSMADsの逆相関の組み合わせは、内軟骨腫と軟骨肉腫の鑑別因子となる可能性が示唆された。

前田 真吾

著者コメント

 軟骨肉腫は、症例間、そして腫瘍内の組織学的ばらつきが大きく、一定の特徴の傾向を捉えるには症例数を大きくする事が王道ですが、軟骨肉腫は比較的レアな腫瘍であり、一施設の研究には限界があります。限られたサンプル数で差を見極めるには実験自体の精度を上げるしかなく、篠原先生には高いレベルを要求したので、大変だったと思います。一方で、PEG10のTGF-βシグナル抑制効果は劇的ではないので、それを内因性レベルで示す為には私自身も綺麗な実験をしなければならず、条件検討に苦労しました。またこの論文は、当初PEG10の機能解析にまで踏み込んだ内容で投稿しましたが、”発現解析と機能解析の内容に繋がりが薄いので分けて再投稿すべき”というeditorの指摘を得て、reviewerの要求に答えて追加実験した後に最初のパートを投稿した論文です。それでも新規投稿扱いなので普通に別のreviewerからreviseを要求されたので、acceptまでトータルで10ヶ月かかった難産の論文でした。(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科医療関節材料開発講座・前田 真吾)