Tankyraseはアダプター蛋白SH3BP2の発現調節を介して、骨量を制御する
著者: | Fujita S, et al. |
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雑誌: | Bone. 2018 Jan;106:156-166. |
- Tankyrase
- SH3BP2
- Osteoclastogenesis
論文サマリー
Tankyraseはpoly (ADP-ribose) polymeraseとして機能し、標的蛋白の分解を誘導する。代表的な標的蛋白にWnt制御蛋白であるAXIN蛋白があり、Tankyrase阻害剤はAXINの蓄積を介してWnt阻害作用を有し、抗癌剤や抗線維化薬への臨床応用が期待されている。一方、SH3BP2蛋白がTankyraseの標的蛋白であることが近年報告された。これまで、我々は細胞内アダプター蛋白であるSH3BP2が破骨細胞調節因子であることを報告し、SH3BP2が関節炎などの骨破壊性疾患の治療標的となり得ることを明らかにしてきた。TankyraseとSH3BP2の関連については報告されているものの、Tankyraseの骨への作用は明らかとなっておらず、本研究ではTankyrase阻害剤を用いてin vitroおよびin vivoの解析を行った。
まず、Tankyrase阻害剤は、マウス骨髄マクロファージにおいてRANKL誘導性にTRAP陽性多核細胞形成および骨吸収能を亢進させた。Tankyraseの阻害によりSH3BP2の発現量は増加し、そのbinding partnerであるSykのリン酸化亢進およびNFATc1の核移行を亢進させることが明らかとなった。さらに、Tankyrase阻害剤はヒト末梢血単核細胞においても同様にRANKL誘導性に破骨細胞分化および機能を亢進させた。一方で、Tankyrase阻害剤は、マウス新生仔骨芽細胞において骨芽細胞関連遺伝子発現を亢進させ、骨基質形成を促進させた。Tankyraseの阻害によりSH3BP2の発現量は増加し、そのbinding partnerであるABLの活性化およびTAZ、Runx2の核移行を亢進させることが明らかとなった。最も重要な点として、Tankyrase阻害剤をマウスに4週間経口投与すると、脛骨および腰椎椎体ともに有意に海綿骨量は低下し、組織のTRAP染色にて破骨細胞数は有意に増加していた。以上の結果より、Tankyraseが破骨細胞分化および骨芽細胞分化を調節する新規の骨代謝調節因子であること、またTankyrase阻害剤のマウスへの投与により破骨細胞活性化を介して骨量が減少することが明らかとなった。本薬剤が抗癌剤や抗線維化薬として臨床応用される際には、潜在的な骨量減少の副作用に注意が必要と考えられた。
著者コメント
所属部署の川崎医科大学リウマチ・膠原病学は若い講座であり、私は同講座の最初の大学院生です。留学先より当科へ赴任された向井准教授の指導の下、骨研究を始めました。RAW264.7細胞を用いた実験によりTankyrase阻害剤の破骨細胞分化促進作用を確認後、マウス骨髄マクロファージの実験に移り、さらにマウス新生仔骨芽細胞の実験、マウスへの薬剤投与の実験へと実験の幅を拡げていきました。その都度、新しい実験系を立ち上げる必要があり、予備実験に多くの時間を費やす必要がありました。決して順風満帆ではありませんでしたが、国内外問わず多くの学会で発表する機会を頂き、その研究成果を”Bone”にまとめることができ、非常に嬉しく思います。直接指導を頂いた守田教授、向井准教授を始め、実験のサポートをしてくれた当科研究スタッフの皆に感謝致します。(川崎医科大学 リウマチ・膠原病学・藤田 俊一)