日本骨代謝学会

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レプチン受容体とRunx2との共陽性細胞は骨髄間葉系細胞の分化ヒエラルキーのトップに位置する

Osteogenic Factor Runx2 Marks a Subset of Leptin Receptor-Positive Cells that Sit Atop the Bone Marrow Stromal Cell Hierarchy.
著者:Yang M, Arai A, Udagawa N, Hiraga T, Lijuan Z, Ito S, Komori T, Moriishi T, Matsuo K, Shimoda K, Zahalka HA, Kobayashi Y, Takahashi N, Mizoguchi T.
雑誌:Sci Rep. 2017 Jul 10;7(1):4928. doi: 10.1038/s41598-017-05401-1.
  • 骨髄間葉系幹細胞
  • Runx2
  • レプチン受容体

溝口 利英

論文サマリー

 骨髄間葉系幹細胞(BM-MSC)は自己複製能を有し、生涯にわたり骨芽細胞の供給源として機能する。以前我々は、BM-MSCをレプチン受容体陽性 (LepR+)細胞として同定した (Dev Cell 29:340,2014)。しかしながら、生体内におけるLepR+細胞の骨芽細胞への分化過程については未だ十分な理解が得られていない。

 本論文では、転写因子Runx2のGFPレポーターマウスを用いてLepR+細胞の骨芽細胞分化過程を解析した。その結果、LepR+細胞の約60%が低レベルのRunx2-GFP(Runx2low)を発現していることが示された。興味深いことにLepR+細胞画分において、Runx2lowの亜集団はRunx2-GFP陰性(Runx2-)の亜集団よりも高い幹細胞能を有することがCFU-F(colony-forming unit fibroblasts)およびスフェロイド(細胞塊)アッセイにより明らかになった。また、LepR+Runx2low細胞はin vitro培養系で多分化能を示した。さらにLepR+Runx2low細胞は、骨形成誘導薬である副甲状腺ホルモン(PTH)(1-34)の投与にともないRunx2、Osterix(Osx)、タイプIコラーゲン(Col1)の発現量が順次上昇し、成熟骨芽細胞に分化することがin vivoで示された。興味深いことに、PTH(1-34)投与後の骨組織近辺では、層状に重なり合ったLepR+細胞(Multilayered cells)が認められた。すなわち、LepR+Runx2low細胞はMultilayered cellsの形成を経て骨芽細胞に分化することが示唆される(図)。

溝口 利英

 以上より、LepR+細胞はヘテロな集団であり、そのRunx2lowの亜集団にBM-MSCが含まれることが示された。同時にこの結果は、骨芽細胞分化のマスター遺伝子であるRunx2が未分化状態でも低発現していることを意味する。さらに、PTHの骨アナボリック効果の一部はLepR+Runx2low細胞の骨芽細胞分化誘導作用を介することを示している。

著者コメント

 松本歯科大学大学院生の楊孟雨(やん もんいう)さん、歯科矯正学講座の荒井敦助教が協力してまとめた論文です。LepR+細胞の骨芽細胞分化をin vivoで解析するためには、骨芽細胞のレポーターマウスが必要でした。長崎大学の小守壽文教授よりRunx2-GFPマウスを、慶應義塾大学の松尾光一教授よりCol1-GFPマウスを供与して頂いたことにより、研究プロジェクトを完遂することが出来ました。
  今回我々が同定したLepR+Runx2low細胞は、血管に近接して骨髄全体に分布します。しかしながら、PTH(1-34)による骨芽細胞分化が亢進する領域は、骨組織近辺に限定されます。以上より、LepR+Runx2low細胞の骨芽細胞への分化を決定する特別な環境が骨組織近辺に存在すると考え、その解明に取り組んでいます。(松本歯科大学総合歯科医学研究所・溝口 利英)