日本骨代謝学会

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ニッチにリザーブされた前駆細胞による骨の再生と維持

Osteoblast Production by Reserved Progenitor Cells in Zebrafish Bone Regeneration and Maintenance
著者:Ando K, Shibata E, Hans S, Brand M, Kawakami A
雑誌:Developmental Cell 43, 1–8. Dec 4, 2017
  • 骨芽前駆細胞
  • 再生
  • ゼブラフィッシュ

安藤 和則
筆頭著者(左から2番目)と川上研究室の学生メンバー

論文サマリー

 骨組織の形成に骨芽細胞の働きが必須であることはいまや常識となっている。哺乳類における数多くの研究から,成体の骨芽細胞は,間葉系幹細胞に由来し,骨芽前駆細胞(Osteoblast Progenitor Cell),さらに前骨芽細胞(Preosteoblast)を経て,骨芽細胞に分化するとされている。しかし,生体内の骨芽前駆細胞の存在は明らかでなかった。本論文では,骨を含む様々の組織で高い再生能力をもつゼブラフィッシュを用い,再生時の細胞系譜解析から,初めて生体内で骨芽前駆細胞を同定し,その働き,さらに発生起源を解明した。

 近年,魚類やアホロートルの四肢,ヒレの再生において,骨芽細胞は損傷部付近の骨芽細胞が脱分化・増殖して供給されることが報告されていたが,一方で同時に,再生前に骨芽細胞を除去して再生させても、骨芽細胞が出現し、骨も正常に形成されることも示されていた。

 私達はトランスジェニックゼブラフィッシュを用い,マトリックスメタロプロテアーゼ9(mmp9)発現細胞が骨組織のニッチにあり,これらが再生時に骨芽細胞へ分化すること,すなわち骨芽前駆細胞であることを発見した。再生時には,脱分化と骨芽前駆細胞の分化の両方によって,骨芽細胞が供給されることがわかった。また,骨芽前駆細胞は再生中に自己複製も行って新たなニッチも再生し,幹細胞様の性質を持つことも明らかになった。

 また,長期の細胞追跡を行うと,この細胞は正常な骨組織の恒常性維持でも,骨芽細胞を供給していた。すなわち,骨芽前駆細胞は,生体内でニッチに蓄えられた細胞として存在し,成体の骨を再生,維持する重要なソースであることが明らかになった。

 さらに本研究では,骨芽前駆細胞の維持や発生起源についても解析を行い,骨芽前駆細胞自身も間葉系細胞によって維持されていること,これらは発生期の体節に由来することを解明した。つまり,骨芽前駆細胞は、体節由来の間葉系前駆細胞が,個体の成長とともに,コミットされた前駆細胞となって,ニッチに保存されたものであった。哺乳類成体では,骨芽細胞は骨髄幹細胞に由来するとされているが,この発生起源や,発生期の骨芽細胞との関わりは明らかにされていない。本研究により,初めてこれらの関連性が示唆された。

 以上の研究から、骨芽前駆細胞の存在や性質,由来が明らかになり,骨の維持や再生の重要な仕組みが明らかになった。同様の前駆細胞は,哺乳類を含む他の脊椎動物にもあると予想され,さまざまの骨疾患の原因解明や再生医療への展開が期待される。

安藤 和則
トランスジェニックを用いた骨芽前駆細胞の可視化。頭蓋骨やエラ、ウロコ、ヒレなどの石灰化組織にEGFPの発現(骨芽前駆細胞)が局在する(左)。骨芽前駆細胞は樹状の突起のある独特を形を持ち,骨系列細胞のマーカーZns5(赤)には陽性である(右、青:DAPI)。

著者コメント

 私は再生組織に発現する遺伝子の発現細胞を解析しようと、トランスジェニックの作製に取り組みましたが、そのような遺伝子は複雑な制御を受けており、系統の確立には多くの労力を要しました。mmp9が再生時にだけ発現するものと考えていた私は、得られた系統を見て(図、左)、内在性の発現を再現できなかったと,とても落胆しましたが、ニッチの細胞を観察していたら、再生組織に向かって動く様子が見られたときは非常に驚きました。さらに解析を進め、骨の再生と維持に重要な細胞であることを明らかにできたのは大きな喜びです。このような研究ができたのは川上厚志先生をはじめ、多くの関係者の方々のおかげです。(東京工業大学生命理工学院・博士課程・安藤 和則)