日本骨代謝学会

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NOTCH2のHajdu-Cheney 症候群型変異はSCFFBW7によるタンパクの量的制御から逸脱することにより、骨粗鬆症状態を誘導する

NOTCH2 Hajdu-Cheney Mutations Escape SCFFBW7-Dependent Proteolysis to Promote Osteoporosis.
著者:Fukushima H, Shimizu K, Watahiki A, Hoshikawa S, Kosho T, Oba D, Sakano S, Arakaki M, Yamada A, Nagashima K, Okabe K, Fukumoto S, Jimi E, Bigas A, Nakayama KI, Nakayama K, Aoki Y, Wei W, Inuzuka H.
雑誌:Molecular Cell. 2017 Nov 16;68(4):645-658.e5. doi: 10.1016/j.molcel.2017.10.018.
  • Hajdu-Cheney症候群
  • Notch2
  • FBW7

福島 秀文

論文サマリー

 Hajdu-Cheney 症候群(HCS)は、末節骨の骨吸収、進行性の骨粗鬆症、頭蓋骨変形を主な病態とする常染色体優性の多中心性骨融解症である。近年、HCSの原因遺伝子として様々な細胞運命決定をつかさどる転写因子であるNOTCH2遺伝子が同定され、NOTCH2のC末端欠失型変異であることが報告された。さらにNOTCH2遺伝子のHCS変異を模倣したモデルマウスがHCS様の表現形を示したことから、HCSの発症における責任遺伝子としてNOTCH2が確立された。しかしながら、HCS発症におけるNOTCH2遺伝子変異の分子生物学的役割は明らかになっていなかった。

 HCS変異型NOCHT2はタンパク質の活性制御に関与するPEST領域を欠失することから、はじめに我々は、野生型及びHCS変異型のNOTCH2のタンパクの半減期の比較を行った。その結果、HCS変異型NOTCH2においてタンパク半減期の延長が認められ、HCS変異型NOTCH2において欠失された部位がNOTCH2のタンパク質分解に寄与していると考えられた。さらに欠失部位のアミノ酸配列の一次構造解析を行ったところ、NOTCH2タンパクの量的制御機構であるユビキチン−プロテアソーム経路(UPS)の一つであるFBW7複合体による認識配列が含まれていた。生化学的な解析の結果、HCS変異型NOTCH2はFBW7複合体による認識配列の欠失により、NOTCH2のFBW7によるUPSによる分解から逸脱していることが明らかになった(図1)。

福島 秀文
図1:Hajdu-Cheney症候群変異型NOTCH2はFBW7複合体によるユビキチン–プロテアソーム経路による量的制御機構から逸脱する。

 これまで我々はNOTCH2が破骨細胞分化を促進することを報告して来た。そこで、HCS変異型NOTCH2の破骨細胞分化に対する影響について検討を行ったところ、野生型に比べHCS変異型NOTCH2においてNOTCH2タンパクの安定化と破骨細胞分化の亢進が見られた。同様の結果がHCS患者の末梢血サンプルからM-CSF/RANKLを用いて破骨細胞を誘導した際においても見られた。このことから、HCS変異型NOTCH2はその安定化とともに、破骨細胞分化を亢進することが明らかになった。

 次にFBW7の破骨細胞分化における役割を明らかにするために、破骨細胞特異的なFBW7コンディショナルノックアウトマウス(cKO)を作出し、解析を行った。FBW7 cKOは破骨細胞数の増加をともなう骨粗鬆症様の表現形を示した。骨髄細胞から破骨細胞誘導を行ったところ、cKOでは優位な破骨細胞の分化亢進が見られた。その際、cKOにおいて既報のFBW7複合体の基質分子とともにNOTCH2の安定化が見られ、破骨細胞分化マーカーの上昇が見られた。また、破骨細胞分化の亢進はNOTCH2 mRNAのノックダウンにより抑制された。

 最後に、cKOの骨粗鬆症様の表現形に対する、ゾレドロン酸およびNOTCHシグナル阻害剤の効果の検討を行った。その結果、ゾレドロン酸同様、NOTCHシグナル阻害剤はcKOにおける破骨細胞分化の亢進を抑制し、in Vivoにおいても骨量の回復を認めた。

 これらのことから、FBW7複合体はNOTCH2の量的制御を介して破骨細胞の分化制御を行っていることが示唆された。

 以上の結果より、NOTCH2のHCS型変異はFBW7複合体によるタンパクの量的制御から逸脱・蓄積し、過剰な破骨細胞分化を引き起こすことが明らかになった。また、以前に報告のあるNOTCH2 HCS型変異体の骨芽細胞での機能変化とともに、破骨細胞の分化が亢進されていることにより、異常な骨量の減少が見られるようになることも示唆された。本研究が今後の本疾患や骨粗鬆症に対する研究や有効な治療法の開発などの役に立つことができればと思っている(図2)。

福島 秀文
図2:本研究のまとめ

著者コメント

 私は福岡歯科大学の本川先生、岡部先生のもとで骨代謝研究に出会い、九州大学の自見先生のもとでNotch2シグナルに出会い、Havard大学でWenyi Wei先生、犬塚先生のもとユビキチン化に関する研究に出会ったことで本研究に至ることができました。本研究を行うにあたり東北大学の福本先生、青木先生、中山先生、現研究室の立ち上げメンバーの多大なるサポートをいただきました。全ての先生方のおかげで研究に区切りをつけることができました。本当にお世話になりました。ありがとうございました。(東北大学東北大学大学院歯学研究科 先端再生医学研究センター・福島 秀文)