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Col1a1スプライスサイトのENU誘導点突然変異による骨形成不全症モデルマウスにおいて明らかになった新たなスプライシングレスキュー機構

An ENU-induced splice site mutation of mouse Col1a1 causing recessive osteogenesis imperfecta and revealing a novel splicing rescue.
著者:Tabeta K, Du X, Arimatsu K, Yokoji M, Takahashi N, Amizuka N, Hasegawa T, Crozat K, Maekawa T, Miyauchi S, Matsuda Y, Ida T, Kaku M, Hoebe K, Ohno K, Yoshie H, Yamazaki K, Moresco EMY, Beutler B.
雑誌:Sci Rep. 2017 Sep 15; 7(1):11717.
  • Col1a1
  • 骨形成不全症
  • スプライシング

多部田 康一
左から横地先生, 筆者,高橋先生

論文サマリー

 真核生物のプレmRNAスプライシングにおいては主としてGU-AGコンセンサスシークエンスがイントロンの識別に機能する。このコンセンサスシークエンスのミューテーションは,スプライシング過程におけるエクソンスキッピングや断片的な塩基の挿入/欠失を生じさせることによりしばしば遺伝疾患の原因となる。アルキル化剤であるN-ethyl-N-nitrosourea (ENU)を投与することによりランダムにゲノム上の点突然変異が誘導されたミュータントマウスにおいて,易骨折性の劣勢形質をもつミュータントマウス(Seal)が発見された。ポジショナルクローニングより,I型コラーゲンα鎖をコードする Col1a1のイントロン36, GU donor splice site (+2bp)に生じたSealミューテーション(T → A)が易骨折性形質の原因となる点突然変異であることが同定された。このSealミューテーションによりGU donor splice site (+2bp)がイントロンの識別に機能を果たさず,エクソン36のスキッピングを生じさせることが予測された。しかしながら実際にはmRNAの産生量は減少しているものの,正常なCol1a1成熟mRNAのトランスクリプトが検出されるという,これまでの知見からは予期されない現象が観察された。そこでSeal ミューテーション近傍のエクソンを含む複数のミニジーンを作製して,in vitroでスプライシングを再現した結果,Seal ミューテーションを持つミニジーンにおいては予測のとおりにエクソン36のスキッピングが観察されるが,イントロン25が存在にすることによりスプライシングエラーが回避されることが明らかになった。つまり,これまで知られるコンセンサスシークエンスやブランチサイトの他にも,正常なイントロン識別を促進するスプライシング機構が存在し,マウスCol1a1においてはスプラシングを受ける領域と異なる遠隔領域にあるイントロンがその機能を果たしていることが明らかになった。Sealの表現型はスプライシングドナーサイトのミューテーションにもかかわらず正常なCol1a1のトランスクリプションが行われるが,その効率が低下していることによるものと考えられ,SealマウスはⅠ型コラーゲンの合成量低下によるこれまでになかった比較的マイルドな骨形成不全症の疾患モデルとして有用な動物モデルであると考えられる。また同時に,ENU mutagenesisにおいて偶然に発見されたSealそのものが,これまで明らかになっていないスプライシング制御機構の存在を示す証拠である。

多部田 康一
図1. 骨形成不全症モデルマウス
脛骨骨端軟骨部における骨梁構造の著しい減少(矢頭),疎なコラーゲン線維の網状構造を認める(矢印)。〔左図:H-E染色像、右図:電子顕微鏡像, A,B: 500 μm ,C,D: 100 μm ,E,F: 2 μm ,G,H: 0.5 μm 〕

多部田 康一
図2. Col1a1におけるポイントミューテーション
Ⅰ型コラーゲンα1鎖をコードする遺伝子におけるイントロン36スプライシングドナー上の点変異(T→A)が表現型の原因である。

多部田 康一
図3. Intron25の存在によるエクソンスキッピングの回避
ミニジーンアッセイにおいて,25番目のイントロンが存在することによって正常なスプライシングが誘導される。

著者コメント

 Sealマウスは米国スクリプス研究所 Dr. Bruce Beutler (2011年ノーベル生理学・医学賞) 研究室にポスドクとして研究留学した際,ENU mutagenesisプロジェクトにおいて自然免疫の新規分子を検索するなかで予期せず見つけたものです。腹腔内注射のためにやや強めにマウスを把持したことで,偶然に易骨折性による脊髄損傷が生じ,そのアザラシが陸をはうように歩行する表現型からSealマウスと命名しました。当時,次世代シークエンサーが無かったため,原因遺伝子の同定にはポジショナルクローニングの手法がとられました。マッピングの結果から比較的早い時期に原因遺伝子の候補としてCol1a1が浮上しました。しかし, mRNAの検出にて異常が認められるべきという思い込みと,Sealの特徴であるmRNA配列が正常であることからミューテーションを見逃し,改めてCol1a1を同定するまで多くの時間と労力を費やすことになったのが苦い思い出です。このマウスにはこれまで知られていないスプライシングの制御機構が存在していることを論文に示しましたが,そのメカニズムに関与する分子の同定に至っていません。この現象と疾患モデルとしての有用性について興味を持つ研究者の目に留まることを願います。(新潟大学医歯学総合研究科歯周診断・再建学分野・多部田 康一)