
骨細胞のRANKL発現を介した矯正学的な歯の移動の制御
著者: | Shoji-Matsunaga A, Ono T, Hayashi M, Takayanagi H, Moriyama K, Nakashima T. |
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雑誌: | Sci Rep 7(1):8753 (2017). |
- RANKL
- 骨リモデリング
- 歯科矯正
論文サマリー
矯正学的な歯の移動過程において、歯根周囲の歯槽骨では緻密に制御された骨リモデリングが起こる。矯正力負荷時の力学的刺激は歯周組織構成細胞を刺激し、歯槽骨の圧迫側では骨吸収を、牽引側では骨形成を誘導する。しかしながら、矯正力による歯槽骨リモデリング誘導機構には不明な点が多い。
長管骨のモデリングやリモデリングにおいては、骨芽細胞や骨細胞など様々な細胞が破骨細胞分化促進因子RANKLを発現し、破骨細胞分化を支持することが明らかになっている。歯槽骨周囲においても、組織学的解析により、歯根膜細胞、骨芽細胞および上皮細胞を含む様々な細胞におけるRANKL発現が報告されているが、細胞および生体レベルでの検討が乏しく、これらの細胞が実際に歯の移動に関与するかは不明である。
我々は、マウスの上顎臼歯に矯正力を負荷する矯正学的歯の移動モデルの解析を行った。抗RANKL中和抗体を投与することにより歯の移動が有意に減少したことから、RANKLが矯正学的歯の移動に必須であることが示された。
歯周組織構成細胞のうちRANKLの主要な産生源として機能する細胞を明らかにするため、野生型マウスの歯周組織構成細胞の新規分画法を確立に取り組んだ。解析の結果、歯根膜細胞画分では歯根膜特異的マーカーであるScxが高発現を示した。また、歯槽骨の酵素処理により得られた骨細胞画分においてDmp1などの骨細胞特異的マーカーが高い発現を示した一方、骨芽細胞特異的マーカーであるKeraの発現は低い値を示した。以上のことから、正確なフラクショネーションが確認できたため、各画分におけるRANKLの発現を解析したところ、骨芽細胞や歯根膜細胞と比較して骨細胞で有意に高いことが見出された。
矯正学的歯の移動における骨細胞由来のRANKLの重要性を生体レベルで明らかにするため、骨細胞特異的RANKL欠損マウスでの歯の移動実験を行ったところ、コントロールマウスと比較して歯の移動量が有意に低下し、圧迫側におけるTRAP陽性破骨細胞数が減少していた。さらに、興味深いことに牽引側での骨芽細胞の出現も同様に減少していた。
以上より、矯正力に伴う歯槽骨リモデリングにおいては、骨細胞が骨吸収を制御するRANKLの主要な発現細胞であることが明らかになった。
矯正モデル
矯正力
著者コメント
私は、東京医科歯科大学 顎顔面矯正学分野に入局、大学院進学後、矯正力負荷時の骨リモデリング制御機構に興味を持ち、分子情報伝達学分野にて研究をしてきました。本研究は、森山啓司教授、中島友紀教授、林幹人助教、小野岳人助教を初めとする研究室のメンバーの方々、研究技術を提供頂いた東京大学 高柳広教授、スタッフの皆様の多大なご協力のもとに遂行されました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。(東京医科歯科大学 顎顔面矯正学分野・庄司 あゆみ)