日本骨代謝学会

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原発性アルドステロン症は椎体骨折のリスク因子である

Primary aldosteronism as a risk factor for vertebral fracture.
著者:Notsu M, Yamauchi M, Yamamoto M, Nawata K, Sugimoto T.
雑誌:J Clin Endocrinol Metab. 2017 Apr 1;102(4):1237-1243.
  • 原発性アルドステロン症
  • 椎体骨折
  • 尿中カルシウム

野津 雅和

論文サマリー

[背景]
原発性アルドステロン症(Primary aldosteronism:PA)は続発性高血圧症の原因疾患として最も頻度が高く、高血圧患者全体の6.0~9.5%を占めるとされる。これまでに、PAは本態性高血圧症と比較して有意に尿中Ca排泄が多く、骨粗鬆症の有病率が高いと報告されてきた。しかし、PAにおいて骨折リスクが増加するかは明らかになっていない。

[方法]
2006年1月から2014年10月までに島根大学医学部附属病院に入院し診断されたPA患者56例(平均年齢59±11歳、男性44.7%)を対象とした。骨粗鬆症検診に訪れた健常者のうち、年齢と性を一致させた健常者56例を層化抽出法によりランダムに抽出して対照群とした。PAの診断について、まず血中アルドステロン濃度とレニン活性の比が200以上の症例をスクリーニングで抽出した。さらに確定診断のための内分泌機能検査(生食負荷、カプトプリル負荷、立位フロセミド負荷)の1つ以上が陽性であればPAと診断した。血液・尿生化学指標、糖代謝指標、Intact PTHに加え、骨吸収マーカー(尿NTX: type I collagen cross-linked N-telopeptides)を測定した。既存椎体骨折の有無をX線像で評価し、DXA法で骨密度(bone mineral density:BMD)を測定した。各指標をunpaired-t、χ二乗検定を用いて比較し、椎体骨折との関連をロジスティック回帰分析にて解析した。

[結果]
PA群は対照群と比較し、収縮期および拡張期血圧、HbA1c、中性脂肪、尿中Ca/Crが高値で、HDL-Cが低値であった(すべてp<0.01)。Cr、intact PTH、%TRP、尿中NTX、腰椎および大腿骨頸部BMDは各群で有意差を認めなかった。椎体骨折者数はPA群25例(44.6%)、対照群13例(23.2%)で、PA群で有意に多かった(p<0.05)。椎体骨折を従属変数として、年齢、性別、BMIで補正したロジスティック回帰分析において、PAであることは椎体骨折のリスクが3.13倍と有意に高値を示した(p<0.05)。この関係は収縮期および拡張期血圧、HbA1c、中性脂肪、HDL-C、Cr、intact PTH、尿中NTXにて追加補正後も有意であった。一方、尿中Ca/Crで補正すると有意差は消失した。

[結論]
PAはPTHや腎機能、糖代謝とは独立した椎体骨折のリスク因子であることを初めて明らかにした。さらに、PA群で尿中Ca/Crが高く、椎体骨折におけるPAの影響は尿中Ca/Crで補正後に消失したことから、PAの骨脆弱性には一部尿中Ca排泄増加が関わることが示唆された。

野津 雅和

著者コメント

 私共の施設では、日常診療においてリスクが高いと思われる方には積極的に骨折リスクを評価し、適切に介入するという診療体制が整っています。そんな中、指導医である山内美香先生、杉本利嗣先生は、かねてよりPAが骨代謝に与える影響に着目しておられました。実際、私が担当したPA患者さんの中には、骨折リスクがそれほど高くないと思われても椎体骨折を有する方がおられました。今回の論文は、この臨床的疑問の解決のため行った研究をまとめたものです。研究のきっかけと、それを実現する環境を与えて下さった指導医の先生方に感謝いたします。人口の少ない島根県の大学ではありますが、臨床、研究の質を高め、日本・世界に発信できるよう、今後も努力したいと思います。(島根大学医学部内科学講座内科学第一・野津 雅和)