日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 黒嶋伸一郎・佐々木宗輝

非培養脂肪組織由来SVF細胞移植はマウス顎骨壊死様病態を緩解させる

Transplantation of Noncultured Stromal Vascular Fraction Cells of Adipose Tissue Ameliorates Osteonecrosis of the Jaw–Like Lesions in Mice
著者:Kuroshima S, Sasaki M, Nakajima K, Tamaki S, Hayano H, Sawase T.
雑誌:J Bone Miner Res. 2017 Sep 13. doi: 10.1002/jbmr.3292
  • マウス顎骨壊死様病態高頻度発現型モデル
  • 脂肪組織由来非培養SVF細胞
  • 抜歯窩治癒不全

黒嶋伸一郎・佐々木宗輝
左から佐々木宗輝(1st Author),澤瀬 隆教授,黒嶋伸一郎(1st author)

論文サマリー

 ビスフォスフォネート製剤関連顎骨壊死(BRONJ)の確定的な病因と効果的な治療戦略は現在でもよく分かっていない.非培養Stromal Vascular Fraction(SVF)細胞移植は,幹細胞治療に代わる再生医療における有用な方法であることが示されている.本研究では,非培養SVF細胞がマウス抜歯窩治癒に与える影響を検索することを目的とした.C57BL/6Jマウスに抗癌剤とビスフォスフォネート製剤を7週間併用投与し,薬剤投与3週間後に第1大臼歯を抜歯した.抜歯4週間後,肉眼的所見と組織形態学的解析により抜歯部位の硬軟組織治癒を評価した.本研究では,抗癌剤とビスフォスフォネート製剤を併用投与している女性患者に抜歯を行うという,ヒト顎骨壊死で最もよく認められる状況を模倣し,雌性マウスに対して高頻度に顎骨壊死様病態を発現する動物モデルを作製した.さらにもうひとつの実験として,創傷治癒不全が認められた濃度の抗癌剤とビスフォスフォネート製剤を5週間継続して併用投与し,薬剤投与3週間後に抜歯を行い,その直後,通法に従って脂肪組織から分離した非培養SVF細胞を移植した.抜歯とSVF移植後2週間でマウスを屠殺し,肉眼的所見,組織形態学的解析,免疫組織形態学的解析,定量qPCR解析,ならびにマイクロCTによる3次元的構造解析を用いて,移植されたSVF細胞が抜歯窩治癒に与える影響を評価した.その結果,非培養SVF細胞移植は,抜歯部位の硬軟組織治癒を促進することにより,顎骨壊死様病態の緩解をもたらすことが明らかとなった.SVF移植は抜歯部軟組織における血管形成とM2/M1マクロファージ比を有意に増加させ,さらに,抗癌剤とビスフォスフォネート製剤の併用投与で認められる抜歯部と骨髄におけるTRAP陽性単核細胞と遊離破骨細胞の増加を抑制した.私たちの研究結果から,非培養SVF移植はBRONJに対する治療法になりうる可能性が示唆された.また,抗癌剤とビスフォスフォネート製剤の併用投与で起こる異常なTRAP陽性単核細胞と遊離破骨細胞の増加はBRONJの病因と関連しているかもしれない.

著者コメント

 薬剤関連顎骨壊死は,病因が不明で,治療法や予防法がありません.一方,幹細胞治療は,研究としては魅力的ですが,歯科領域での承認は極めて難しいため,歯科での適応は難しいと考えております.そこで私たちは,脂肪組織由来非培養SVF細胞に着目し,非培養SVF細胞移植がビスフォスフォネート製剤と抗癌剤を併用投与して作製した抜歯窩治癒不全モデルに与える影響を検索しました.その結果,非培養SVF細胞移植は抜歯窩治癒不全を寛解させたことから,培養環境が不要なSVF細胞移植は顎骨壊死の治療戦略となり得る可能性が示唆されました.
 今後も顎骨壊死の基礎研究と臨床研究を継続的に展開することで,いつの日か顎骨壊死に対する簡便な治療法や予防法が開発されることを切に願います.(長崎大学歯学部口腔顎顔面インプラントセンター・黒嶋伸一郎・佐々木宗輝)