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マウス関節軟骨におけるHyaluronidase-2の発現抑制は変形性関節症を進行させる

Conditional knockdown of hyaluronidase 2 in articular cartilage stimulates osteoarthritic progression in a mice model
著者:Yoshitoshi Higuchi, Yoshihiro Nishida, Eiji Kozawa, Lisheng Zhuo, Eisuke Arai, Shunsuke Hamada, Daigo Morita, Kunihiro Ikuta, Koji Kimata, Takahiro Ushida, Naoki Ishiguro
雑誌:Sci Rep. 2017 Aug 1; 7(1): 7028.
Doi: 10.1038/s41598-017-07376-5
  • Hyaluronidase-2
  • ヒアルロン酸
  • 変形性関節症

樋口 善俊
左から西田准教授(Corresponding Author)、樋口

論文サマリー

 ヒアルロン酸は様々な組織の細胞外基質の主要な構成成分であり、関節軟骨を含む結合組織や関節の滑液および眼の硝子体を含む結合組織において特に豊富に存在する。ヒアルロン酸の合成メカニズムに比べて、分解過程については未解決な点が多く、特に軟骨組織においてはまだ明らかにされていない。関節軟骨ではHyaluronidase(ヒアルロン酸分解酵素、以下Hyal)のうちHyal1とHyal2がヒアルロン酸分解の中心的役割を担っていると考えられているが詳細はわかっていない。Hyal1の発現を抑制すると変形性関節症の進行を促進させると報告されているが、Hyal2に関しては不明である。そのため、関節軟骨特異的にHyal2の発現を抑制することで、変形性関節症の発症に関連するか解析した。

 Hyal2発現を抑制したマウスを用いて自然老化モデル(生後9か月)、内側半月板不安定化(DMM手術)モデルマウス(生後10週で手術)、IL-1αを使用したexplant cultureモデル(生後4週の大腿骨頭)により解析した。変形性関節症の評価は組織学的評価(modified Mankin score)と免疫染色(MMP-13,ADAMTS-5)を行った。さらに、ヒアルロン酸の蓄積を定性的に評価するためにbiotinylated- hyaluronan binding protein (B-HABP)染色を行った。また、定量的評価を目的に、9ヶ月齢のHyal2発現抑制および野生型マウスの膝関節および大腿骨頭から抽出したヒアルロン酸に関してセファクリルS-1000ゲル濾過クロマトグラフィーと競合ELISA法を用いて分子量と各画分のヒアルロン酸含量を測定した。

 Hyal2発現抑制マウスの関節軟骨にはヒアルロン酸(図1)、特に高分子量(図2)が過剰に存在していた。3種類のモデルでHyal2発現抑制マウスは野生型マウスより変形性関節症あるいは変形性関節症様変化が進行し、MMP-13とADAMTS-5が多く出現していることが分った(図1)。以上の結果からHyal2の発現抑制によりヒアルロン酸が過剰に蓄積し、変形性関節症の進行に関連することを明らかにした。過去に報告された、ムコ多糖症IX(Hyal1の発現抑制が原因)が軟骨にヒアルロン酸が過剰に蓄積し、変形性関節症を発症する病態と、Hyal2の発現抑制は類似した病態であることが示唆された。

樋口 善俊
樋口 善俊
図1 DMM術後の組織学的評価の結果

樋口 善俊
図2 9ヶ月齢のHyal2発現抑制マウスの膝関節および大腿骨頭から抽出したヒアルロン酸に対するクロマトグラフィーと競合ELISA法の結果

著者コメント

 本研究の目的は、関節軟骨におけるヒアルロン酸分解活性の異常が引き起こす病態を明らかにするために、[1]Hyal2の発現を抑制すると関節軟骨に高分子ヒアルロン酸が過剰に蓄積することの証明と[2]高分子ヒアルロン酸の過剰な蓄積により変形性関節症変化に対してどのような影響があるかを明らかにすることでした。高分子ヒアルロン酸は関節内に注射することで、関節軟骨保護作用を示すとされていますが、外来的に投与するヒアルロン酸と内在的に蓄積するヒアルロン酸とは機能が異なるとの仮説で実験を始めました。3種類のモデルで変形性関節症の進行が証明されたときは非常に胸が躍りました。

 研究の過程で一番の苦労はHyal2発現抑制マウスを作成することでした。必要予定数のマウスを作成するため、毎日がgenotypingの嵐で非常に体力を必要としました。二番目の苦労は軟骨組織からヒアルロン酸を抽出することでした。マウスの小さい大腿骨頭、膝関節の軟骨に骨が混入しないように、メスで軟骨だけを薄く削り取る作業は、自分で言うのもおこがましいですが職人芸だったと思います。愛知医大の学際的痛みセンターと連携し、仮説通りに関節軟骨に高分子ヒアルロン酸が過剰に蓄積していることを証明できたときの喜びは格別でした。

 何度も心が折れそうになりましたが、最後まで実験を遂行することができました。本研究に多大な御指導を受け賜りました西田佳弘准教授をはじめとする共著者の先生方、当研究室の皆様には心より御礼申し上げます。(名古屋大学大学院医学系研究科 機能構築医学専攻 運動・形態外科学講座・樋口 善俊)