日本骨代謝学会

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閉経後骨粗鬆症患者と健常ボランティア女性の脊柱アライメントと筋力ならびにQOLの比較

Comparison of spinal alignment, muscular strength, and quality of life between women with postmenopausal osteoporosis and healthy volunteers.
著者:Miyakoshi N, Kudo D, Hongo M, Kasukawa Y, Ishikawa Y, Shimada Y.
雑誌:Osteoporos Int. 2017 Nov;28(11):3153-3160.
  • 脊柱アライメント
  • 筋力
  • QOL

宮腰 尚久
共著者の秋田大学整形外科脊椎班:左から、本郷道生、宮腰尚久、工藤大輔、粕川雄司、石川慶紀

論文サマリー

 骨粗鬆症では、椎体骨折後の脊柱後弯変形などによって生活の質(quality of life: QOL)が低下する。また、近年、骨粗鬆症とサルコペニアの関連が注目されてきたことから、骨粗鬆症患者のQOLの低下には筋力の低下も関与している可能性が高い。一方、骨粗鬆症に罹患していない健常者においても、加齢に伴い脊柱の後弯は進行し、筋力も低下する。本研究では、閉経後骨粗鬆症患者と健常ボランティア女性を比較することにより、骨粗鬆症患者のQOLの低下に影響する脊柱アライメントや筋力に関する因子を検討した。

 対象は、閉経後骨粗鬆症患者236名(骨粗鬆症群:平均69歳)と、農村部の健常ボランティア女性93名(ボランティア群:平均71歳)である。全例でbody mass index (BMI)、胸椎後弯角、腰椎前弯角、握力、背筋力、SF-36によるQOLを評価し、群間で比較した。また、各パラメーター間の相関性を検討した。

 その結果、BMI、背筋力、握力は、ボランティア群よりも骨粗鬆症群で有意に低値であり、胸椎後弯角と腰椎前弯角は骨粗鬆症群で有意に大きかった(p<0.01)。SF-36のスコアでは、8つの下位尺度のうち、「RP:日常役割機能(身体)」(p=0.001)、「BP:身体の痛み」(p<0.001)、「GH:全体的健康感」(p=0.017)、「RE:日常役割機能(精神)」(p=0.004)において、骨粗鬆症群がボランティア群よりも有意に低値であった。さらに年齢調整後の群間比較では、「PF:身体機能」も骨粗鬆症群で有意に低値であった(図)。また、SF-36のサマリースコアでは、身体的サマリースコアのみが骨粗鬆症群で有意に低値であったが (p<0.001)、このサマリースコアは、骨粗鬆症群においてのみ、胸椎後弯角と有意な正の相関を示し、BMIと有意な負の相関を示していた(p<0.05)。

宮腰 尚久
閉経後骨粗鬆症患者と健常ボランティア女性の年齢調整後のSF-36スコアの比較
PF, physical functioning; RP, role physical, BP, bodily pain; GH, general health; VT, vitality; SF, social functioning; RE, role emotional; MH, mental health.
(この図は、論文では紙面の都合上、”data not shown” として省略していたものである)

 以上の結果から、骨粗鬆症患者のQOLの低下(特に、痛み、健康感、精神面、身体機能に関するもの)には、胸椎後弯の増強と、全身の筋量や筋力の低下が関与していると考えられた。一方、過去の研究によれば、骨粗鬆症患者のQOLの低下には腰椎後弯の増強が大きく関与していることがわかっている。ところが本研究では、健常女性のほうが腰椎の前弯が小さかった(腰椎後弯が大きかった)にもかかわらず、骨粗鬆症患者よりもQOLが高かった。健常女性では握力や背筋力が強かったことを考慮に入れると、このことは、加齢とともに脊柱の後弯が進行しても、筋力が保たれていればQOLは維持できることを示唆している。すなわち、高齢者のQOLには、脊柱アライメントとともに筋力が非常に重要な役割を担っていると考えられる。

著者コメント

 われわれは、脊椎外科医の立場から、骨粗鬆症患者の脊柱アライメントや筋力、QOLに関する研究を続けてきました。これまでの15年以上にわたる研究により、さまざまな新知見が得られましたが、骨粗鬆症患者に生じる問題を真にとらえるには、健常者にも生じる加齢に伴う変化を考慮に入れるべきであるという結論に至り、今回の研究を始めました。この研究に協力してくれたボランティアは、北秋田市阿仁地区の皆様です。阿仁は秋田県の中央に位置する山々に囲まれた農村部で、マタギの里としても有名な地域ですが、日頃から身体を動かしている高齢者は皆さんとても元気です。今後も、元気な高齢者を分析することによって、骨粗鬆症における臨床上の問題を明らかにしていきたいと思います。(秋田大学大学院医学系研究科整形外科学・宮腰 尚久)