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薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の治療法と治療成績に関連する因子の検討:傾向スコアマッチングを用いた多施設共同後ろ向き研究

Evaluation of the Treatment Strategies for Medication-Related Osteonecrosis of the Jaws (MRONJ) and the Factors Affecting Treatment Outcome: A Multicenter Retrospective Study with Propensity Score Matching Analysis.
著者:Hayashida S, Soutome S, et.al.
雑誌:J Bone Miner Res. 2017 Jun 6. doi: 10.1002/jbmr.3191
  • MRONJ
  • Propensity score matching analysis
  • Surgical treatment

林田 咲
右:指導医の梅田教授、左:筆頭著者(私)

論文サマリー

 Medication-related Osteonecrosis of the Jaws (MRONJ)は、骨粗鬆症や悪性腫瘍の骨転移などの治療に使用されるビスフォスフォネート製剤やデノスマブ製剤に関連して起こる口腔領域の疾患である。2003年に報告されて以降、症例数は増加しており、そのメカニズムの解明や治療法の確立が望まれている。米国口腔顎顔面外科学会は2014年にポジションペーパーを更新し、それに追随して日本でも2016年に改定を行ったが、治療法に関しては基本的に当初と変わらず保存療法が中心である。しかしながら、欧米では比較的早くから外科療法に踏み切る施設もあり2014、2015年には外科療法の有効性を示すsystematic reviewが報告された。日本では依然として保存療法を第一選択に行う施設も多く、議論が絶えない。そこで今回われわれは多施設共同後ろ向き観察研究を行い、MRONJの治療法と治療成績に関する因子を明らかにすることを目的にpropensity score matching法を用いてバイアスを可能な限り調整して検討を行った。

 対象は8施設の口腔外科で加療したMRONJ患者で3か月以上経過観察が可能であった361例である。診療録より年齢、性、発症部位、発症契機、骨吸収抑制剤の種類(BP/Dmab)・投与量(high-dose;主に悪性腫瘍の骨転移などに使用される投与量、low-dose;主に骨粗鬆症治療に使用される投与量)・投与期間・休薬の有無、ステロイドの有無、糖尿病の有無、白血球数、アルブミン値、クレアチニン、ALT、stage、治療法(外科療法の場合は術式、開放or閉鎖創)について調査を行った。

 完全治癒率は全体(361例)では保存療法25.2%、外科療法76.7%であった。さらに、投与量別ではlow-dose(164例)は保存療法59.2%、外科療法94.6%、high-dose(197例)は保存療法6.9%、外科療法51.5%であった。さらに治療法(保存療法vs.外科療法)でpropensity score matching施行後の176例において検討を行った結果、投与量がlow-doseであること、そして外科療法を行うことが良好な治療成績を得る因子として挙げられた。

 次に外科療法を行う際の有効な術式を検討した。外科療法を行った159例で解析した結果、壊死骨のみを除去したconservative surgeryよりも健全骨に及ぶまで壊死骨周囲の骨も削除するextensive surgeryのほうがより有効であった。なお、今回の検討ではMRONJ治療中の骨吸収抑制剤の休薬の効果は明らかでなかった。

 本研究でMRONJ治療におけるextensive surgeryの有効性が明らかになった。しかし、[1]腐骨周囲の硬化した骨をすべて取り除く必要があるか、[2]創部は一次閉鎖が適切か、[3]全身状態が不良であり外科療法ができない患者の効果的な治療法は何か、などまだ解決すべき問題は残されている。

著者コメント

 本研究は、2012年から検討を始めてきたが単施設では症例数の限界もあり、より高いエビデンスを求めて、今回多くの先生方の協力を得て多施設共同研究を行い多数例の検討が可能となった。我が国のMRONJ治療は、保存療法vs.外科療法、休薬を行うvs.行わないなど歯科の中でも意見が統一していない。客観的な臨床データに導かれた結果に基づいて議論を大いに尽くすべきだが、現状では経験的な知見などで治療方針を決定する施設も多い。最も重要なのは、MRONJ治療によって原疾患の治療が徒に滞ったり、中断したりすることで患者に大きなリスクを科さないようにすることである。われわれは今後も多数の客観的データで患者に還元できる研究を行っていきたい。(長崎大学大学院口腔腫瘍治療学分野・林田 咲)