日本骨代謝学会

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ニコチン性アセチルコリンレセプターα7サブユニットは、骨量の負の制御に必須な因子である

The nicotinic acetylcholine receptor α7 subunit is an essential negative regulator of bone mass.
著者:Mito K, Sato Y, Kobayashi T, Miyamoto K, Nitta E, Iwama A, Matsumoto M, Nakamura M, Sato K, Miyamoto T.
雑誌:Sci Rep. 2017 Mar 28;7:45597.
  • α7ニコチン性アセチルコリンレセプター
  • ニコチン
  • 迷走神経

三戸 一晃

論文サマリー

 α7ニコチン性アセチルコリンレセプター(α7 nicotinic acetylcholine receptor: α7nAchR)は、主に脳や心臓に発現し、副交感神経系による機能調節に関連していることが報告されているが、骨代謝との関連に関する報告は乏しい。そこで、副交感神経によるα7nAchRを介した骨調節機構の解明を試みた。まずα7nAchRノックアウト(以下KO)マウスの骨表現型が野生型マウスに比べ有意な骨密度の増加と破骨細胞数の減少を示すことを見出した。しかし、in vitroにてα7nAchRのリガンドであるアセチルコリンやニコチンを野生型、α7nAchR KOマウス由来の破骨細胞分化系に添加しても、破骨細胞分化には影響がなかったことから、α7nAchRは間接的に破骨細胞形成を正に制御することが示唆された。そこで、血清osteoproteegrin(OPG), RANKLをELISA法にて検討したところ、α7nAchR KOは野生型に比べ有意にOPG/RANKL比が高値を示すことが明らかとなった。また、α7nAchR・OPGダブルノックアウト(DKO)マウスでは、α7nAchR KOにおける骨の表現型である骨量増加と破骨細胞数減少が改善したことから、α7nAchR KOの表現型はOPG高値に基づくものであることが明らかになった。さらに、野生型マウスに対し副交感神経切除を行ったところ、α7nAchR KOと同様に血清OPG/RANKL比の増加を示し、ニコチンを投与すると逆に血清OPG/RANKL比は減少した。脳組織をはじめα7nAchRが豊富に発現している臓器がOPG/RANKLの制御を行っていることを確認するため、野生型、α7nAchR KOマウス間で骨髄移植を行った結果、仮定に反し骨髄がその制御を行っていることが明らかとなった。さらにFACSにてα7nAchR KOマウス由来のMac1陽性マクロファージにおいてTNFαが野生型に比べ高値であることがわかり、TNFαは骨芽細胞様細胞であるMC3T3細胞を強く刺激しOPG産生を促すことがin vitroにて示された。また、α7nAchR KO・TNFαDKOマウスでは、α7nAchR KOの骨表現型が改善されていること、
in vivoにおいてTNFα阻害剤であるエタネルセプトを投与するとα7nAchR KOマウスの血清OPG/RANKL比が野生型と同レベルに低下するとの結果を得た。

 これらの結果から、α7nAchRは、副交感神経系を介しマクロファージからのTNFαを抑制し、これにより骨芽細胞でのOPG, RANKLを制御することで破骨細胞の活性を正に制御する骨量低下に導く調節系に関わること、また、ニコチンはこの系を活性化することが示された。今回の解析により、副交感神経系による骨恒常性制御のメカニズムと、喫煙による作用物質であるニコチンが骨に及ぼす作用機序を新たに明らかにすることができた。

三戸 一晃

三戸 一晃

著者コメント

 喫煙者では、骨折治癒、骨癒合の遷延が見られることは臨床上広く知られていますが、その機序についてはcontroversialです。私は、宮本健史先生の研究室に配属されてから、このメカニズムを解明することを目的とし研究を行いましたが、やはりその解明は困難で結果がでないまま4-5年が経ちました。その後、α7nAchR KOマウスの衝撃的な骨表現型が明らかになってから急に研究が進みました。結果としてα7nAchRを介し迷走神経は生理的な骨代謝制御を行うとの類を見ない知見、またニコチンは有用な炎症反応さえ抑制し骨癒合不全を引き起こす可能性が得られ、本研究で指導いただいた宮本健史先生、佐藤和毅先生、中村雅也教授には深く感謝いたします。(慶應義塾大学医学部整形外科・三戸 一晃)