骨粗鬆治療薬アレンドロネートは、骨折部位に接する骨格筋の再生を阻害する
著者: | Kawada S, Harada A, Hashimoto N. |
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雑誌: | PLoS One. 2017 Jul 17;12(7):e0181457. |
- アレンドロネート
- 骨粗鬆症
- 骨格筋
論文サマリー
窒素含有ビスフォスフォンネート、アレンドロネートalendronateは、もっともよく使われている骨粗鬆症治療薬のひとつである。その治療効果は破骨細胞の活性抑制を抑制することによると考えられている。アレンドロネートは、骨基質に選択的に取り込まれることが知られており、骨組織以外、特に骨格筋に対する薬理作用に関しては、不明の点が多かった。
骨格筋は、骨に近接しており、骨基質から溶出されたアレンドロネートに曝露される可能性がある。我々は、先行研究において、不死化ヒト筋細胞を用いた解析(Shiomi , et al., 2014)を行い、アレンドロネートは、未分化筋細胞の細胞運動、増殖および分化を阻害するが、分化した筋管細胞には影響を与えないことを明らかにした。この結果は、アレンドロネートが筋再生を阻害する可能性を示唆している。
そこで、in vivoにおいて、アレンドロネートが筋再生に与える影響を検討した。マウスにアレンドロネートを複数回腹腔内投与した後に、大腿四頭筋に低温障害を与えて筋再生を誘導したところ、筋再生に異常は認められなかった。
一方、大腿骨を実験的に骨折させ、骨折部位に接する大腿四頭筋に低温障害を与えたところ、筋再生は、アレンドロネートを投与した場合にのみ、阻害された。この時、大腿四頭筋の障害部位では、骨格筋組織幹細胞である筋サテライト細胞が消失し、損傷した筋線維は修復・再生されず、筋線維が不可逆的に欠損した。
このように筋再生が障害された部域では、マクロファージによる損傷筋線維の貪食が見られず、筋組織内の血管再生も阻害されていた。マクロファージや血管内皮前駆細胞の機能阻害を介して、間接的に筋再生が抑制される可能性が考えられる。
骨折とアレンドロネートを組み合わせることによって筋再生が阻害される機序については、未だ不明の点が多い。しかし、本研究は、アレンドロネートの服用が骨格筋の再生能力に影響を与える可能性を明確に示している。
著者コメント
私は、骨格筋の再生メカニズムを、筋幹細胞(筋サテライト細胞)の機能制御という観点から研究を進めてきました。骨代謝に関しては門外漢ですので、Reviewersや身近にいらっしゃる専門家の方々に教えていただきながら、なんとか論文出版にまでこぎつけました。
筆頭著者の川田君を叱咤激励(?)しながら、実質半年あまりでデータを得ることができましたが、その後の論文作成には苦労しました。実際、実験データに変更はありませんが、最初に投稿した原稿と出版された論文とでは、書き換えた部分が、かなりあります。文献を読んで書いた議論と、専門家の認識との間には彼我の差があることを痛感しました。(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 研究所 再生再建医学研究部・橋本 有弘)