低酸素応答性COMMD1はヒトマクロファージにおいてシグナルと細胞代謝を調整し、破骨細胞分化を抑制する
著者: | Murata K, et.al. |
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雑誌: | Immunity. 2017 Jul 18;47(1):66-79. |
- 破骨細胞
- 関節リウマチ
- 低酸素
論文サマリー
関節リウマチ患者の関節は低酸素状態にあり、低酸素下では炎症反応は調整を受け、破骨細胞分化は促進する。しかしながら低酸素における破骨細胞分化促進機構は不明である。今回COMMD1 が低酸素によって抑制される、破骨細胞分化抑制因子であることを同定した。低酸素によってCOMMD1はタンパク質レベルで 局在と発現が調節され、その活性が抑制された。COMMD1をsiRNAによりsilencingを行うと低酸素状態と同様に破骨細胞分化が促進した。eQTL解析を行ったところ、COMMD1の発現の高い関節リウマチ患者が存在し、そのような患者では骨破壊が有意に少なかった。骨髄球にて特異的にCOMMD1を欠損させたマウスで関節炎を誘導したところ、破骨細胞分化は促進していた。またTNFを使用した炎症性骨融解モデルにおいても同様の結果であった。したがって、COMMD1は低酸素下で抑制される、破骨細胞分化抑制因子であることがわかった。機序として、破骨前駆細胞において低酸素下ならびにCOMMD1抑制下ではRANKLによるNF-kBシグナルとE2F1の標的遺伝子が活性化され、破骨細胞分化が促進されていた。E2F1は細胞周期に関与する転写因子であるが、細胞分裂を行わないヒト破骨前駆細胞においては、ストレス環境下でエネルギー需要を満たすために、ATP産生のための解糖系ならびにATP貯蔵に関与するCKBを始めとする細胞代謝経路を調整していた。これらの結果から、炎症下の破骨細胞分化において、COMMD1はE2F1による細胞代謝経路を調節する重要な因子であることが判明した。
著者コメント
関節リウマチ特異的に関節破壊を抑制することを考えたとき、関節リウマチ患者の関節は低酸素状態にあるということでした。低酸素下で破骨細胞分化は促進することが知られており、これは主にHif(hypoxia inducible factor)によるものと考えられていました。今回我々は、Hifとは異なる作用機序で、低酸素における破骨細胞分化を調整する因子を同定しました。また機序としても、ヒト破骨前駆細胞はG0と細胞分裂しない状態にあるにもかかわらず、細胞周期を調整するE2F1転写因子による制御を必要としている非常に興味深い知見を得ることができました。
私は整形外科医で、大学院生時代は主に関節リウマチならびに骨折におけるmiRNAの役割について研究を行っていました。今回、新たにアメリカ、ニューヨークのHospital for Special Surgery, Arthritis and Tissue Degeneration Program and David Z. Rosensweig Genomics Research CenterにてDr. IvashkivとDr. Park-Minに指導して頂き、破骨細胞分化の研究を行いました。臨床データは主にKURAMAコホート(Kyoto University Rheumatoid Arthritis Management Alliance)より提供頂きました。関係頂いた皆様に感謝申し上げます。(京都大学大学院医学研究科リウマチ性疾患先進医療学講座・村田 浩一)