日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 大隈 佳世子

アルデヒド脱水素酵素2 遺伝子欠損マウスにおいて、骨格への荷重負荷による海綿骨量増加がみられないのは、骨髄細胞におけるp21発現を介した細胞周期制御の障害と関連している

Disruption of the aldehyde dehydrogenase 2 gene results in no increase in trabecular bone mass due to skeletal loading in association with impaired cell cycle regulation through p21 expression in the bone marrow cells of mice
著者:Okuma KF, Menuki K, Tsukamoto M, Tajima T, Fukuda H, Okada Y, Mori T, Tsuchiya T, Kawamoto T, Yoshida Y, Uchida S, Sakai A.
雑誌:Calcif Tissue Int. 2017 Sep;101(3):328-340. doi: 10.1007/s00223-017-0285-0. Epub 2017 May 4.
  • ALDH2
  • climbing exercise
  • p21

大隈 佳世子

論文サマリー

 Aldehyde dehydrogenases-2は、アセトアルデヒドを酢酸へ分解する酵素である。日本人の約45%は低活性型か不活性型である。酵素が不活性型の日本人高齢者は低骨密度であることが報告されている。Aldh2 knockout(KO)マウスの骨形態の特徴として、成長期において大腿骨横径成長が抑制され、大腿骨横断面積が小さい形態を示す。このAldh2KOマウスの大腿骨横径成長の抑制が、成長期における骨への荷重負荷に対する応答性の低下によるものと仮説をたてて、成長期の荷重負荷による海綿骨量変化に着目した。当研究室で開発した、高さ1メートルの金網製クライミングケージを用いて荷重を負荷した。

 結果として、野生型(C57BL/6J)マウスではクライミングにより有意に大腿骨海綿骨量が増加したが、Aldh2KOマウスはクライミングしても海綿骨量は増加しなかった。骨形態計測では、野生型ではクライミング運動後の骨形成パラメーター値が上昇し、初代骨髄細胞培養で骨分化能は促進された。また野生型はクライミング後に骨髄細胞でp21のmRNAおよび蛋白の発現が低下し、細胞周期解析でS期の割合が増加した。しかし、KOマウスにおいては、これらの実験項目でコントロール群とクライミング群の間にはいずれも有意差がなかった。

 これまでに、我々は、アルコールを摂取したAldh2KOマウスの骨髄細胞では、細胞周期の調節因子であるp21の発現が亢進しG2 arrestを生じることにより骨形成能が低下することを報告してきた。またp21をknock downすることにより、ヒト間葉系幹細胞においてS期の割合が増加し骨形成能が促進することが報告されている。また宇宙微小重力環境下のマウスでは、p21による細胞周期調節を介して骨量減少を生じることが報告されている。本研究は、骨格への荷重負荷とp21発現低下による細胞周期調節を介した骨代謝制御との相互関係が、Aldh2遺伝子欠損状態では障害されることを示した。

 クライミング運動による海綿骨量増加は、野生型マウスで認められるがAldh2KOマウスでは認められなかった。その理由として、Aldh2遺伝子欠損状態では、荷重負荷によるによるp21発現低下がみられず、骨形成が促進されない機序が考えられた。

大隈 佳世子

著者コメント

 Aldh2ノックアウトマウスは、飼育している印象では大人しくて、クライミングケージの登り始めも慎重です。私自身がアルコールをあまり飲めない体質なこともあり、Aldh2ノックアウトマウスに愛着を持って実験にあたってきました。
 成長期のクライミング運動が骨量増加に効果が低いというのは、Aldh2遺伝子を持たない動物にとっては不安要素ですが、ヒトにおいてALDH2遺伝子に生活習慣やlifespanという要素が加わるとどう変化を示すかについては非常に興味深く、予防医学および産業医学という観点でも期待を膨ませています。(産業医科大学・大隈 佳世子)