日本骨代謝学会

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Keap1欠損の骨格組織における影響:破骨細胞分化過程におけるNFATc1減少のメカニズム

Effects of deficiency of Kelch-like ECH-associated protein 1 on skeletal organization: a chanism for diminished nuclear factor of activated T cells cytoplasmic 1 during osteoclastogenesis.
著者:Sakai E, Morita M, Ohuchi M, Kido MA, Fukuma Y, Nishishita K, Okamoto K, Itoh K, Yamamoto M, Tsukuba T.
雑誌:FASEB J. 2017 Sep;31(9):4011-4022. doi: 10.1096/fj.201700177R. Epub 2017 May 17.

坂井 詠子
坂井ラボメンバー

論文サマリー

 酸化ストレスは、生体高分子を酸化することで細胞障害性に働く一方、細胞内シグナルや細胞分化においても重要な役割を担っている。我々は以前、破骨細胞分化初期に、抗酸化酵素であるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の発現を誘導すると破骨細胞分化が阻害されることを報告した。HO-1などの抗酸化酵素群は、転写因子Nrf2によって制御される。通常Nrf2はKeap1と結合しているが、酸化ストレス下では、Keap1のシステイン残基が修飾をうけ、それにより結合が外れたNrf2は核へ移行し抗酸化酵素の転写を促進する。しかしNrf2が恒常的に活性化しているKeap1 遺伝子欠損(KO)マウスは生後すぐに死亡するため骨を調べた報告はなかった。

 我々は、野生型、Keap1 KO、Nrf2 KO新生仔マウスを用いて透明骨格標本を作製すると、一部のKeap1 KOマウスに距骨と踵骨の無いものが認められた。Keap1 KOマウスの脛骨HE染色像から肥大軟骨層の減少と、TRAP染色から破骨細胞数の減少が認められた。頭蓋骨由来骨芽細胞と脾臓由来破骨細胞前駆細胞との共存培養を行ったところ、Keap1 KO骨芽細胞が破骨細胞形成を支持できるのに対して、破骨細胞前駆細胞がKeap1 KOの場合は破骨細胞が殆ど形成されないことから、Keap1 KOマウスに見られる破骨細胞数の減少は破骨細胞前駆細胞に問題があると思われた(図1)。近年、ミトコンドリア因子が破骨細胞分化誘導に必要であることが報告されたが、Keap1 KO細胞では、PGC1βやミトコンドリア酵素の発現は低く、IRF8の高い発現がみられた。またIRF8同様、NFATc1の抑制因子であるMafBの高い発現も認められた。

坂井 詠子

  以上のことから、Keap1 KOにおいてNrf2が恒常的に活性化することでIRF8やMafBといったNFATc1抑制因子が増加した結果、破骨細胞分化が阻害されたと思われる(図2)。Keap1 KOでは軟骨細胞分化や骨芽細胞分化も抑えられており、今後の研究が必要である。

坂井 詠子

著者コメント

 Keap1 KOマウスは生後すぐ死んでしまうので骨髄細胞を得るのが困難でした。そのため脾臓より破骨細胞前駆細胞を調製する方法を選択しましたが、遺伝子型の確認後、脾臓を取り出しつつ頭蓋骨から骨芽細胞を調製し終わる頃には夜遅くなりました。本研究を行うに当たって、筑波隆幸教授には常に温かくご指導いただきました。また、弘前大学の伊東健教授との出会いがなかったらこの仕事はできませんでした。長崎大学の中山浩次教授からは、本研究を始めるきっかけをいただきました。実験で困った時は、内藤真理子先生、森石武史先生が助けて下さいました。大切な家族を失い、子育てや家事に追われながら研究を続けることができたのは、私の背中を押して下さった山田毅先生、朔敬先生、程珺先生など多くの先生方のお陰です。心から感謝申し上げます。本研究が、骨粗鬆症に苦しむ母のための治療薬開発につながればと願っています。(長崎大学 医歯薬学総合研究科 生命医科学講座 歯科薬理学分野・坂井 詠子)