日本骨代謝学会

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シグナル分子PRIPは破骨細胞分化を制御する

Phospholipase C-related, but catalytically inactive protein (PRIP) up-regulates osteoclast differentiation via calcium-calcineurin-NFATc1 signaling.
著者:Ayako Murakami, Miho Matsuda, Yui Harada, Masato Hirata
雑誌:J. Biol. Chem. 2017 292: 7994-8006. doi:10.1074/jbc.M117.784777
  • 破骨細胞分化
  • NFATc1
  • カルシウム

松田 美穂
左から筆者、平田雅人名誉教授、村上絢子先生 (教室旅行にて)

論文サマリー

 PRIP [phospholipase C (PLC) related but catalytically inactive protein] は、Ins(1,4,5)P3結合性の細胞質分子として見いだされた。ドメイン構造がPLCδ (phospholipase Cδ)に類似しているものの酵素活性を持たないことから上記のように名付けられたが、種間で高度に保存されたタンパク質であり、その機能は不明であった。PRIP遺伝子欠損(KO)マウスを作製し、その解析過程で骨量の増加を見いだしたことから、私達は骨代謝機構におけるPRIPの機能について解析を行ってきた。これまでの結果から、KO骨芽細胞の分化能亢進による骨芽細胞数増加および骨形成量増加が明らかとなり、一方、KO破骨細胞においては接着や機能に異常が見られ、骨吸収能の低下が示唆された。

 そこで今回、私達は破骨細胞形成におけるPRIPの役割について解析を行った。マウスを用いた矯正的歯の移動を行ったところ、野生型(WT)に比べKOマウスでは、歯の移動量の減少(図1)および圧迫側における破骨細胞数の減少が見られた。

松田 美穂
図1 矯正力による歯の移動(μCT画像)

骨髄細胞の単培養および前骨芽細胞との共存培養による破骨細胞への分化誘導の解析から、KO由来の骨髄細胞における分化した破骨細胞数の減少を確認した。分化誘導に重要なM-CSFとRANKLの各受容体の膜発現を見たところ、KO細胞において減少しており、また、破骨細胞の分化制御に関わる種々の遺伝子の発現も減少していた。カルシニューリンのタンパクレベルでの発現量と活性もKOで有意に低下していた。これらのことから、KOマウスでは破骨細胞分化の初期に遺伝子発現低下を来す何らかの異常が起こっているものと考え、破骨細胞分化のマスターレギュレーターである転写因子NFATc1の細胞内局在を検討したところ、WTに比べKO細胞では、破骨細胞分化に伴うNFATc1の核移行量が減少していた(図2)。

松田 美穂
図2 細胞内Ca2+濃度上昇によるNFATc1の局在の変化 (TG:Thapsigargin)

 そこで、細胞内カルシウム濃度を強制的に上昇させたところ(thapsigargin添加)、KO細胞におけるNFATc1の核内移行は回復し(図2)、破骨細胞の形成もWTと同レベルかむしろ多いくらいに回復した(図3)。これらの結果より、PRIPは細胞内カルシウム濃度の調節を介してcalcium-calcineurin-NFATc1シグナル経路を調節することにより破骨細胞分化を正に制御することが明らかとなった。本研究により、PRIPが破骨細胞分化を制御する新規分子であることが示され、今後骨代謝制御機構の基盤研究に進展をもたらすものと期待される。

松田 美穂
図3 細胞内Ca2+濃度上昇によるKO破骨細胞分化の回復

著者コメント

 PRIP-KOマウスは、生殖系に異常があり出産仔数が少ないので、マウス大腿骨から調製した骨髄細胞を用いた解析を行うにあたって、なかなかマウスが産まれず思うように実験が進まないことも多々ありましたが、ようやくここまで明らかにすることができました。PRIP分子が発見されて数年後、in situ hybridizationを行ったとき、それまで脳に多く発現しているとされていたPRIPが破骨細胞で染まったのを見て、「この分子は破骨細胞で何をしているのだろう・・・?」と思ったのが昨日のことのように思い出されます。平田雅人九州大学名誉教授をはじめ共著の皆様に心より感謝申し上げます。(九州大学大学院歯学研究院 口腔細胞工学・松田 美穂)