日本骨代謝学会

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ホスファチジルエタノールアミン動態は破骨細胞融合に必要である

Phosphatidylethanolamine dynamics are required for osteoclast fusion.
著者:Irie A, Yamamoto K, Miki Y, Murakami M.
雑誌:Sci Rep. 2017 Apr 24;7:46715.
  • 破骨細胞
  • 細胞融合
  • リン脂質

入江 敦

論文サマリー

 破骨細胞は、分化の最終段階で単核の破骨細胞前駆体同士が細胞融合することによって形成される。この破骨細胞融合は、破骨細胞形成過程における重要なステップだが、そのメカニズムは不明な点が多い。細胞融合現象には、細胞膜脂質のダイナミックな構造変化が不可欠であり、破骨細胞融合に脂質が重要な役割を持つ可能性が考えられることから、我々は、細胞膜の主要な構成成分であるリン脂質の動態に焦点を当て、破骨細胞融合機構の解明を試みた。

 まず我々は、マウス初代培養の破骨細胞分化融合系において、破骨細胞が融合する際に、リン脂質の一種であるホスファチジルエタノールアミン(PE)の生合成が増えることを見出した。細胞膜は脂質二重層によって形成されており、一般的な細胞においてPEは二重層の内層(即ち細胞質側)に多く存在するが、外層(即ち細胞表面側)にはわずかしか存在しない。しかし、破骨細胞においては、細胞が分化するにつれて細胞膜二重層外層のPEが増加するユニークな分布を示した。破骨細胞前駆体は、細胞融合する際に偽足様突起を伸長し、2つの前駆細胞同士の偽足様突起が接触することによって膜融合が起こるが、この偽足様突起の細胞膜外層にPEが偏在していた。また、細胞融合期の破骨細胞前駆体の細胞表面のPEの働きをブロックすると細胞融合が阻害されたことから、PEの分布が細胞融合に重要であることがわかった。次に、我々は破骨細胞におけるPE動態を担う分子を脂質関連分子のなかから探索した。その結果、破骨細胞分化過程におけるPEの生合成増加は、リン脂質生合成酵素の一種であるLPEAT2が担っており、LPEAT2のノックダウンによりPEの生合成が有意に減少するとともに、破骨細形成が抑制されることが明らかとなった。一方、細胞表面へのPEの移行は、リン脂質トランスポーターのABCB4とABCG1が責任分子であり、ABCB4とABCG1をノックダウンしたところ、PEの生合成に変化がなかったものの、細胞膜表面へのPEの移行が阻害され、破骨細胞形成が抑制された。

 以上の結果から、破骨細胞融合過程において、LPEAT2、ABCB4とABCG1によってPEの量的・質的変化が起こることが明らかになった。PEはアラキドン酸やドコサヘキサエン酸といった不飽和度の高い脂肪酸を多く含んでいるが、細胞膜において不飽和脂肪酸の含有量が増えると、細胞膜の流動性が増加することが知られている。また、脂質二重層においてPEが二重層内層に多く、外層に少ないほうが膜の物理化学的安定性が高いが、二重層外層にPEが移行すると、膜の不安定性が増加する。このように破骨細胞分化過程のPE動態によって膜の流動性・不安定性が増加し、その結果、偽足様突起の形成が促進され、細胞融合に有利に働くものと考察される。

入江 敦

著者コメント

 細胞融合は、2つの細胞の細胞膜脂質二重層が1つの細胞膜二重層になる現象であり、まさしく膜脂質が中心的役割を担っているにもかかわらず、膜脂質の動態に視点を置いた破骨細胞融合の研究はまったくなされていませんでした。私たちは脂質生物学を専門としており、骨代謝の世界では、いわば「門外漢」ですが、そのために骨代謝学の先生方とは違った視点から破骨細胞融合の研究に取り組むことができたと考えております。
  本研究は、東京都医学総合研究所・脂質代謝プロジェクトにおいて村上誠先生(現東京大学大学院医学系研究科・疾患生命工学センター・健康環境医工学部門 教授)にご指導いただきました。村上先生をはじめ研究に携わった先生方に深く感謝申し上げます。((公財) 東京都医学総合研究所 分子医療プロジェクト・入江 敦)