日本骨代謝学会

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重力変化が筋と骨に及ぼす影響におけるフォリスタチンの役割

Role of follistatin in muscle and bone alterations induced by gravity change in mice.
著者:Kawao N, Morita H, Obata K, Tatsumi K, Kaji H.
雑誌:J Cell Physiol. 2017 May 4. doi: 10.1002/jcp.25986.
  • 筋・骨連携
  • 重力変化
  • フォリスタチン

河尾 直之

論文サマリー

 重力変化は筋と骨に同時に強い影響を及ぼすことが知られているが、私共はマウスにおいて過重力負荷による筋量と骨量の増加に前庭系が寄与することを報告している (Kawao N et al: Physiol Rep. 2016;4:e12979.)。筋と骨の相互連関(筋・骨連携)が注目されているが、重力変化が筋・骨連携に及ぼす影響は不明である。最近、筋で産生され筋量を減少させる因子であるマイオスタチンが、破骨細胞形成を促進して関節リウマチの骨破壊に寄与することが報告され、マイオスタチンとその関連因子が骨代謝に影響を及ぼすことが示唆される。今回、過重力負荷が筋・骨連携因子およびマイオスタチン関連因子に及ぼす影響と、前庭系の寄与を検討した。

 前庭系破壊手術あるいはsham手術を施したマウスを、1 gあるいはゴンドラ型遠心機を用いて3 gの重力環境で4週間飼育した。抗重力筋であるヒラメ筋において、過重力は筋・骨連携因子である、IGF-1、FGF2、オステオグリシン、FNDC5 (irisin)、TGF-β、マイオスタチンの発現に影響を及ぼさなかった。一方、過重力はマイオスタチンの阻害因子であるフォリスタチン、IL-6、FAM5Cの発現を増加させたが、これらのうちフォリスタチン発現増加のみが前庭破壊によって阻害された。これより、フォリスタチンは過重力により前庭系を介して筋で産生されることが示唆された。マウス筋芽細胞株C2C12細胞において、クリノスタット装置を用いた模擬微小重力はフォリスタチン発現を減少させたが、剪断ストレスは影響を及ぼさなかった。さらに、フォリスタチンは筋分化と筋蛋白合成を促進させたが、筋分化には影響を及ぼさなかった。また、マウス血中のフォリスタチン濃度は、過重力負荷により増加が認められたが、脛骨、肝臓、内臓脂肪におけるフォリスタチン発現量に変化はみられなかった。これより、過重力は前庭系を介して筋でフォリスタチン発現を増加させ、体液性に骨に影響を及ぼすことが示唆された。最後に、フォリスタチンの骨への影響をin vitroにおいて検討した。フォリスタチンはBMP2による骨芽細胞への分化に対するアクチビンAの抑制作用を阻害し、マウス単球系RAW264.7細胞においてRANKL存在下でのマイオスタチンによる破骨細胞形成促進作用を阻害した。

 以上より、重力変化による前庭系を介した筋と骨への影響に、フォリスタチンが筋・骨連携因子として寄与することが明らかになった。フォリスタチンは重力負荷刺激により筋で産生され、筋量を増加させると共に、筋・骨連携因子として、アクチビンAの骨芽細胞分化抑制作用とマイオスタチンの破骨細胞形成促進作用を阻害することで骨量を増加させることが示唆された。

河尾 直之
過重力は前庭系を介して筋でのフォリスタチン発現を増加させる。フォリスタチンは、筋において蛋白合成および筋分化を促進して筋量を増加すると共に、筋・骨連携因子として体液性に骨に作用して、破骨細胞形成の抑制および骨芽細胞分化の促進により骨量を増加させることが示唆された。

著者コメント

 今回の研究は、重力負荷のマウス実験を岐阜大学で行い、サンプルを大阪に持ち帰って解析することを何度か繰り返しながら進めていきました。サンプリングに少し苦労しましたが、マイオスタチンの阻害因子であるフォリスタチンが、重力変化により誘導される筋・骨連携因子であることを明らかにし、骨粗鬆症とサルコペニアの両者の治療標的になりうることを示唆することができました。本研究にあたり重力負荷の実験では岐阜大学の森田啓之先生に大変お世話になり、また、梶博史先生には筋・骨連携のパイオニアとして、多くのご指摘・ご助言を頂きました。この場をお借りして感謝申し上げます。(近畿大学医学部再生機能医学講座・河尾 直之)