日本骨代謝学会

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骨形成は破骨細胞によるsclerostin発現の低下を介して、骨吸収と共役する

Bone formation is coupled to resorption via suppression of sclerostin expression by osteoclasts
著者:Koide M, Kobayashi Y, Yamashita T, Uehara S, Nakamura M, B. Hiraoka Y, Yasuda H, Takahashi N, and Udagawa N
雑誌:J Bone Miner Res. 2017 May 24. doi: 10.1002/jbmr.3175.
  • 骨代謝共役
  • 破骨細胞
  • Sclerostin

小出 雅則

論文サマリー

 骨の恒常性は骨吸収と骨形成が共役し維持される。我々のグループは、骨吸収が亢進したオステオプロテゲリン欠損 (OPG-KO) マウスでは骨形成も亢進すること、OPG-KOマウスにおいて骨吸収を抑制すると骨形成も抑制されることを示した (2003, Endocrinology)。近年、骨細胞はWnt受容体のアンタゴニストであるsclerostinを産生し、骨形成を抑制することが示されている。我々は、骨吸収の促進が骨細胞のsclerostinの発現低下を介して骨形成を促進させると仮説を立て実験を行った。更に、sclerostinの発現を低下させる破骨細胞由来の因子を検討した。

 長管骨の免疫染色と定量PCR解析より、OPG-KOマウスでは対照マウスよりsclerostin発現が著しく低下していた。一方、OPG-KOマウスではβ-cateninおよび骨形成の指標であるOsterix発現が増加していた。以上の結果より、骨吸収の促進が骨細胞のsclerostinの発現低下によるWnt/β-cateninシグナルの増加を介して骨形成を促進させることが示唆された。

 Sclerostinの発現を低下させる破骨細胞由来の因子を検討するため、抗体アレイを用いて、破骨細胞の培養上清中のサイトカイン量を測定したところ、sclerostin発現を抑制する可能性のある因子としてleukaemia inhibitory factor (LIF) を見出した。Sclerostinを高発現するUMR106細胞培養にLIFを添加すると、sclerostinの発現が抑制された。また、この培養に破骨細胞の培養上清を添加すると、sclerostinの発現が抑制された。抗LIF中和抗体を添加することにより、破骨細胞の培養上清によるsclerostinの発現抑制効果は、消失した。

 最後に、OPG-KOマウスに抗RANKL抗体を投与し骨吸収を抑制した場合、LIFの発現が抑制されるかどうか検討した。抗RANKL抗体の投与により、長管骨の破骨細胞数およびLIFの発現が低下し、一方、sclerostin発現は増加した。以上の結果より、破骨細胞由来のLIFがsclerostinの発現を抑制し、骨形成を亢進させることが示唆された。

 本研究は、骨吸収から骨形成の共役が骨細胞を介して調節されることを示した。破骨細胞由来のLIFが骨細胞のsclerostin発現を抑制する候補であることを示した。今後、破骨細胞によるsclerostin発現の抑制を介する骨形成促進作用の生理的意義を明確にすることが必要である。LIFは骨吸収抑制薬による骨形成の低下を改善する治療薬として期待される。

著者コメント

 私は、歯科医師として歯周病により喪失した歯周組織を再生することは大変困難であることを痛感しました。歯槽骨の維持や歯周組織の再生には基礎研究が必要であると考え、松本歯科大学の宇田川信之先生、小林泰浩先生、高橋直之先生の下、その機会に恵まれました。抄読会で学んだ知識を元に仮説を立て、論文にまとめることが出来ました。今後、骨吸収抑制薬による骨形成の低下を改善する治療薬の開発を目指したいと考えております。共同研究者である愛媛大学の飯村忠浩先生とオリエンタル酵母の保田尚孝先生に厚く御礼申し上げます。(松本歯科大学・小出 雅則)