日本骨代謝学会

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毛包に存在する神経堤由来幹細胞は骨芽細胞様細胞への分化能を持ち、破骨細胞の分化を支持する

Induction of osteoblastic differentiation of neural crest-derived stem cells from hair follicles.
著者:Urano-Morisawa E, Takami M, Suzawa T, Matsumoto A, Osumi N, Baba K, Kamijo R.
雑誌:PLoS One. 2017 Apr 6;12(4):e0174940.
  • 神経堤由来細胞
  • 骨芽細胞
  • 破骨細胞

浦野 絵里

論文サマリー

 骨造成術を必要とする治療では、患者の腸骨や人工骨補填材が用いられているが、近年、新しい方法として脂肪組織などの組織幹細胞を用いた骨組織再生法の開発が試みられている。我々は、新しい幹細胞のソースとして毛包に存在する神経堤由来細胞に着目した。胎生初期の神経管癒合部に出現する神経堤由来細胞は、末梢神経細胞、色素細胞、頭頸部の骨など、胚葉の区分を超えた分化能を有し、成長後も一部の幹細胞は組織に存在する。毛包はその1つとして知られ、毛包の神経堤由来細胞を効率良く増殖させ、それらを骨芽細胞に分化誘導することができれば、新しい骨再生方法の開発に役立つと考えた。

 実験では、神経堤由来細胞がGFPで標識される遺伝子改変したダブルトランスジェニックマウスを用いた。このマウスは、神経堤細胞マーカーであるミエリンプロテインゼロ(P0)のプロモーターでCreリコンビナーゼを発現し、CAGプロモーターでGFPを発現する(P0-Cre; CAG-CAT-EGFP Tg mice)。このマウスから採取した毛包を観察すると、バルジ領域と毛乳頭領域にGFP陽性細胞すなわち神経堤由来細胞の存在が確認された(写真1)。

浦野 絵里
写真1

 採取直後の毛包細胞のうち、神経堤由来細胞(GFP陽性細胞)は約10%を占めていた。細胞分離を実施せずそのまま幹細胞用培地(無血清、B-27サプリメント、FGF、EGF含有)で培養すると、GFP陽性細胞が選択的に増殖し、培養14日後には全細胞の95%以上を占めた(写真2)。GFP陽性細胞は、間葉系幹細胞マーカーであるPDGFRα、Sca-1と神経堤細胞関連遺伝子p75を発現していたが、骨芽細胞分化誘導用培地中(血清、BMP-2含有)で培養するとp75の発現が低下し、アルカリホスファターゼ、Osterix、オステオカルシンなどの骨芽細胞関連遺伝子の発現が上昇した。さらに、β-グリセロリン酸、アスコルビン酸およびデキサメタゾンを添加すると石灰化物を産生し、活性型ビタミンDの添加により破骨細胞分化誘導因子(RANKL)を発現し、破骨細胞分化を支持した。

浦野 絵里
写真1

 以上の結果から、成体マウス毛包内に存在する神経堤由来幹細胞は高い増殖活性と骨芽細胞への分化能をもち、幹細胞による骨造成法の有用な細胞ソースとなりうることが示唆された。

著者コメント

 毛包の神経堤由来細胞との出会いは、私の細胞分化に対する考えを大きく変えました。非常に高い増殖能や多分化能など、神経堤細胞が第4の胚葉と呼ばれていることをこの研究を通じて実感し、魅せられてしまいました。iPS細胞を始め、様々な幹細胞の研究が世界中で進められていますが、神経堤由来細胞はそれらと同じように未来の再生医療を切り開く、新しいツールになると考えています。しかし、研究成果を臨床応用するには、まだまだ多くの課題が山積しており、それらを解決していかなければなりません。大学での臨床や教育の仕事とともに、この研究に取り組んでいきたいと思います。最後になりましたが、大学院生だった私を指導してくださった先生方にこの場をお借りして厚く感謝申し上げます。(昭和大学歯学部歯科補綴学講座・浦野 絵里)