日本骨代謝学会

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ビスホスホネート治療後の細菌感染による骨壊死は炎症性サイトカイン上昇が必須である

Elevation of pro-inflammatory cytokine levels following anti-resorptive drug treatment is required for osteonecrosis development in infectious osteomyelitis.
著者:Morita M, Iwasaki R, Sato Y, Kobayashi T, Watanabe R, Oike T, Nakamura S, Keneko Y, Miyamoto K, Ishihara K, Iwakura Y, Ishii K, Matsumoto M, Nakamura M, Kawana H, Nakagawa T, Miyamoto T.
雑誌:Sci Rep. 2017 Apr 7;7:46322.
  • 顎骨壊死
  • 骨吸収抑制剤
  • TNFα

森田 麻友

論文サマリー

 2002年にMarxらがパミドロネートの副作用として顎骨壊死を報告して以来、これまで多くの骨粗鬆症薬や抗癌剤による薬剤関連性顎骨壊死の症例が報告されてきた。しかしながら、顎骨壊死が起こるメカニズムに関しては未だ解明されていない。病期分類によるそれぞれの治療法の提案がされているものの、臨床医は治療に困窮しているのが現状である。

 顎骨壊死動物モデルは、2009年頃より報告されてきたが、その多くは薬剤に焦点を当てた研究である。骨吸収抑制剤は全身投与にも関わらず、顎骨にしか壊死が起きないという観点から、薬剤だけでなく口腔内常在菌による感染が発症に寄与していることが予想される。ラットやマウスの動物モデルの口腔内をヒトと同じような環境で維持させることは困難であるため、これまで菌の感染の観点からはあまり報告がなかったと考えられる。

 そこで我々は、アレンドロネートと菌により骨壊死がどのように行われているのか、解析をすすめた。in vivoにおいて、野生型マウスにアレンドロネート1mgを週1回投与した。投与開始2週間後にマウスの大腿骨骨髄内にMSSAを投与しボーンワックスを用いて骨髄内に生菌をとどめた。大腿骨皮質骨のHE染色では、術後5日よりempty lacunaeがみられ、術後1週間では全ての症例でおおよそ60-70%のempty lacunaeが確認された。菌のみの投与でも骨壊死を認めたが、菌量を少なくすると、PBSを投与したコントロール群と比較し、アレンドロネート投与群でempty lacunaeが多く認められたことから、アレンドロネートが骨壊死を増悪することが示唆された。菌投与後3日目の皮質骨の免疫染色では、骨小腔内の骨細胞にTUNEL陽性を認めた。そこで我々は、細胞のアポトーシスを誘導する因子として、TNFαに着目し解析を行った。骨髄中のマクロファージのマーカーであるF4/80とTNFαの二重免疫染色の結果より、マクロファージの産生するTNFαが骨壊死を誘導している可能性が考えられた。次に、TNFαKOマウス群を用い同様の実験を行ったところ、野生型マウスと比較し有意差をもって骨壊死を抑制した。また、TNFα阻害剤であるエタネルセプトを投与したマウス群でも、骨壊死を抑制することが分かった。このことから、既に商品化されている既存の薬剤が、ONJの予防に使用できる可能性もあると考える。

森田 麻友

著者コメント

 学会で今回のテーマを発表した際には想像していた以上に多くの質問やご意見をいただきました。そのことから、多くの先生方がこのテーマに関心を持たれていることを改めて実感しました。今回の実験では生菌を骨内にとどめておくために大腿骨に菌を投与したため、「顎骨壊死の動物モデルと言えるのか?」などという批判的な意見もいただきました。動物モデルの確立は、原因の解明や治療への可能性を追求するためには非常に重要であると考えます。今後、マウスの抜歯モデルなどを用いて顎骨を用いた実験も加え更なる追求をすることで、将来的には臨床への応用へとつなげていくことができたらと思います。
 本研究にあたり、ご指導いただきました多くの先生方に深く感謝申し上げます。(慶応義塾大学歯科・口腔外科・森田 麻友)