サイクリンディペンデントキナーゼインヒビター1欠損マウスは炎症の増悪を伴い変形性関節症が進行する
著者: | Kihara S, et.al . |
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雑誌: | J Bone Miner Res. 2017 May;32(5):991-1001. |
- p21
- 変形性関節症
- 炎症
論文サマリー
P21はcyclin dependent kinase2/4を阻害して細胞周期を調整している。近年、それ以外にp21は炎症を抑制する機能を持つと報告されている。また変形性関節症の進行過程で炎症が関与するとの報告も散見される。本研究の目的は変形性膝関節症の進行においてp21の機能を、炎症の制御という観点から明らかにすることである。
0週齢でp21ノックアウトマウス(KO)と野生型マウスにDMM手術を行い、手術後1週と8週で屠殺し膝関節を摘出、パラフィン包埋し、H-E、サフラニンO染色及び、各種免疫染色を行った。また、IKKの特異的な阻害薬であるBMS-345541で阻害実験を行った。
H-E染色で滑膜炎を評価したところ術後1週、8週ともにp21欠損マウスで強い滑膜炎像を認めた。Saf-O染色はOARSI scoreで評価し、術後8週のp21欠損マウスにおいてより進行した軟骨変性を認めた(図)。micro-CTではBone Surface density(BS/TV)、Trabecular Separation(Tb.Sp)がp21欠損マウスで有意に高値であり、Trabecular Thickness(Tb.Th)、軟骨下骨厚はp21欠損マウスが有意に低値であった。ELISAの結果、IL-1βはcontrolを除く各time pointでp21欠損マウスが有意に高い値を示した。
滑膜はF4/80、IL-1β、p-IKK α/βの、軟骨はIL-1β、p-IKK、MMP-3、MMP-13の免疫染色を行った。滑膜のF4/80染色についてはF4/80 scoreを用いて評価し、軟骨のIL-1β、p-IKK α/β、MMP-3、MMP-13については陽性細胞率を計測したところ、いずれもp21欠損マウスで強い染色性を認めた。また、脛骨骨端部でのCathepsin K陽性細胞を計測したところ、p21欠損マウスが多くの陽性細胞を認めた。BMS-345541を関節内に注射することでMMP-3,13が野生型と同程度の発現量に抑制できることが示された。
本研究の結果、DMM surgeryによって生じた変形性膝関節症変化は、p21欠損マウスで進行しており、炎症が全身的にも局所的にもp21欠損マウスで増悪していた。その機序としてはマクロファージの浸潤、軟骨基質分解酵素の発現の増加、IL-1βによるNF-κBの経路の活性化が影響を及ぼしていると考えらえた。p21は炎症や変形性関節症に抗する重要な役割を持つと考えられる。
著者コメント
当教室では先行研究としてp21欠損マウスに変形性関節症モデルを作成すると、Signal Transducers and Activator of Transcription-3の活性化を介してOAが進行すると報告している。しかしなぜp21欠損マウスではOAが進行するのか、その機序については未だ不明な点が多いためこの度p21の炎症コントロール機能という点に着目して研究を計画した。当初予想していた以上にp21欠損マウスでマクロファージの浸潤などの炎症反応の増悪を著しく認め、その機序としてIKKの関与が大きかったことを発見した。このことは変形性関節症のみならず骨代謝にも影響しておりp21の生体内における機能は多岐にわたることが考えられ、今後の研究展開が期待されるところである。最後にこの場をおかり致しまして、研究にご尽力いただきました多くの皆様に深くお礼申し上げます。(神戸大学大学院 整形外科・木原 伸介)