日本骨代謝学会

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糖脂質ガングリオシド欠損は関節軟骨修復を促進する

Depletion of Gangliosides Enhances Articular Cartilage Repair in Mice.
著者:Matsuoka M, Onodera T, Homan K, Sasazawa F, Furukawa JI, Momma D, Baba R, Hontani K, Joutoku Z, Matsubara S, Yamashita T, Iwasaki N.
雑誌:Sci Rep. 2017 Mar 2;7:43729.
  • 関節軟骨修復
  • スフィンゴ糖脂質酸
  • 軟骨分化

松岡 正剛

論文サマリー

 糖鎖はDNA、RNA、タンパク質に続く第4のセントラルドグマとして注目を集め、糖鎖構造の違いが、様々な生命現象を制御していることが明らかとなってきている。我々はこれまでスフィンゴ糖脂質と軟骨代謝の関係性に着目し、ガングリオシドと呼ばれるシアル酸残基を有する糖脂質のサブグループ群が他のグループと比較し軟骨に最も豊富に存在することを明らかにし 、ガングリオシドを欠損させたマウスにおいて変形性膝関節症への進行が加速することを見出した。

 本研究では我々が過去に報告したマウス大腿骨顆部軟骨全層欠損モデルを用いて(Matsuoka M. et al. Tissue Eng 2015)、C57BL/6(野生型)マウスにおける全ガングリオシド合成の起点となる糖脂質GM3の発現パターンを解析し、GM3は修復過程後期に修復組織周囲に特異的に発現することが明らかとなった(Fig. 1)。ガングリオシドを欠損するGM3合成酵素のノックアウトマウス (GM3-/-マウス) に同様の関節軟骨損傷を作製すると、GM3-/-マウスは野生型マウスと比較して良好な関節軟骨修復を示し(Fig. 2)、修復組織周囲の10型コラーゲン、Runx2、Indian hedgehogの発現が低下していた。生体外では、マウス間葉系幹細胞、軟骨細胞を回収しガングリオシド欠損の表現型を調査したところ、増殖能、遊走能には差がない一方、マウス間葉系幹細胞からの軟骨分化誘導ではGM3は軟骨分化誘導後期に特異的に発現し、GM3-/-マウスにおいて10型コラーゲン、Runx2、Indian hedgehogの発現が低下していた。また軟骨細胞に肥大化誘導を行うと同様にGM3-/-マウスではIndian hedgehog経路を介して10型コラーゲンの発現が抑制された。

松岡 正剛

松岡 正剛

 本研究において,ガングリオシドが関節軟骨修復過程において軟骨細胞の肥大化を制御することが明らかとなり、その合成起点である糖脂質GM3とその合成酵素は関節軟骨修復を促進する上で、病態態解明及び治療法の開発における標的分子となりうることを明らかにした。

著者コメント

 論文は、筆者が大学院博士課程在学中に行った研究をまとめたものです。マウスにおける関節軟骨損傷モデルの確立は困難を極め、研究1年目は来る日も来る日もマウス膝関節にアプローチし続けました。1年目の年末にようやく評価可能な軟骨修復を示す切片を確認できた喜びは今でも覚えています。それから我々が研究テーマとしている糖鎖工学的アプローチを用いてこのような報告をさせていただきました。変形性関節症と比較して関節軟骨修復の分子生物学的メカニズムは不明なままです。これからも研究を継続し、ベッドサイドに還元できるような成果を探求していきたいと思っております。最後にこの場を借りて、本研究に多大なご指導、ご協力を賜りました岩崎倫政教授、小野寺智洋先生を始めとする多くの共著者の皆様方に改めて御礼を申し上げます。(北海道大学大学院医学研究院専門医学系部門 機能再生医学分野 整形外科学教室・松岡 正剛)