Arid5bは、ヒストン脱メチル化酵素Phf2をSox9依存性遺伝子にリクルートし、軟骨形成を促進する。
著者: | Hata K, Takashima R, Amano K, Ono K, Nakanishi M, Yoshida M, Wakabayashi M, Matsuda A, Maeda Y, Suzuki Y, Sugano S, Whitson RH, Nishimura R, Yoneda T. |
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雑誌: | Nat Commun. 2013 Nov 26;4:2850-2860 |
- 内軟骨性骨形成
- Arid5b
- Sox9
論文サマリー
軟骨細胞分化のマスター遺伝子として転写因子Sox9が同定されてから、内軟骨性骨形成の分子メカニズム解明が飛躍的に進展した。しかしながら、Sox9だけで軟骨細胞分化が誘導されるわけではない。例えば皮膚線維芽細胞にSox9を過剰発現させても軟骨細胞分化は誘導されないことから、未だ同定されていないSox9の転写パートナー分子の存在が推察される。本研究では、異なる軟骨細胞分化能を示す2つの線維芽細胞を比較し、Sox9の機能発現調節メカニズムの解明を目指して研究を行った。
まず我々は、Sox9の過剰発現により高い軟骨細胞分化能を示すC3H10T1/2細胞と分化能の低いNIH-3T3細胞の遺伝子発現プロファイリングを、超高速シークエンサーSolexaを用いて比較検討した。その結果、C3H10T1/2細胞に選択的に高発現する転写因子としてArid5b (AT rich interactive domain 5b) を見出した。免疫組織染色によりArid5bはマウス成長板の増殖軟骨層に強く発現していることが示された。C3H10T1/2細胞にArid5bを過剰発現すると、Sox9の転写活性とCol2a1 mRNAの発現が顕著に促進され、Arid5bとSox9の物理的結合がPull-downアッセイにより認められた。興味深いことに、Arid5bはヒストン脱メチル化酵素Phf2と結合し、Col2a1遺伝子およびアグリカン遺伝子プロモーター上にPhf2をリクルートすることにより、転写のブレーキ役を果たすヒストン3のジメチル化ヒストン(H3K9me2)の脱メチル化を誘導し、結果的にCol2a1遺伝子発現を促進することがすることが明らかとなった。軟骨細胞分化におけるArid5b-Phf2の重要性をさらに解析するためにArid5b遺伝子欠損マウス(Arid5bKO)の解析を行った。Arid5bKO は内軟骨性骨形成の遅延による成長障害を呈し、軟骨細胞分化過程におけるSox9の反応性の顕著な低下を示した。Arid5bKOより採取した初代培養軟骨細胞では、野生型に比較してCol2a1遺伝子プロモーター領域へのPhf2のリクルートが減少し、H3K9のジメチル化も亢進していた。以上の結果より、Arid5bはPhf2によるSox9標的遺伝子プロモーターのヒストン脱メチル化を促進、すなわち転写のプレーキを解除することにより、Sox9標的遺伝子の発現をオンに誘導し、内軟骨性骨形成を制御していることが明らかとなった。(図参照)
本研究によって、Sox9による内軟骨性骨形成の制御過程におけるエピゲノムの関与が明らかになった。
著者コメント
本研究は、最初からエピジェネティックスの一つであるヒストン修飾機構の解明を目指したわけではなく、Sox9の転写共役因子の同定と機能解析を目標に研究を進めていった結果、軟骨細胞分化におけるArid5bとPhf2依存性ヒストン脱メチル化の重要性を見出すことができました。様々な研究領域や疾患でエピジェネティックスの重要性が明らかになりつつあるものの、骨代謝領域でのエピゲノム研究は、ようやく黎明期を迎えたところである。本研究が、骨代謝研究の発展と骨・関節疾患の新規治療法の開発に少しでも貢献できればと思っています。最後になりましたが、Phf2抗体をはじめとする様々な研究ツールを御供与頂いた加藤茂明先生に感謝申し上げます。(大阪大学大学院歯学研究科 波多 賢二)