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日本における閉経後骨粗鬆症に対するゾレドロン酸年1回静脈内投与の費用対効果

Cost-effectiveness analysis of once-yearly injection of zoledronic acid for the treatment of osteoporosis in Japan.
著者: Moriwaki K, Mouri M, Hagino H.
雑誌:Osteoporos Int. 2017 Jun;28(6):1939-1950.
  • 骨粗鬆症
  • ゾレドロン酸
  • ビスホスホネート
  • 費用効果分析

森脇 健介

論文サマリー

 ゾレドロン酸はビスホスホネート製剤の一つであり、海外の大規模無作為化試験であるHORIZON試験において骨粗鬆症性骨折の予防効果が示されている。本剤は、年1回の静脈注射であるため、毎日、毎週、または毎月服用しなければならない経口ビスホスホネート製剤に関連する副作用の問題を回避し、患者の治療継続をより長期にわたり簡便に維持することが容易になることが期待される。

 欧州の研究グループは、フィンランド、ノルウェー、オランダにおけるゾレドロン酸の費用効果分析を実施しており、ゾレドロン酸治療が標準治療や既存のビスホスホネート製剤と比較して費用対効果に優れることを報告している。一方、日本人骨粗鬆症患者におけるゾレドロン酸の費用対効果はこれまで十分に検討されていなかった。西洋人と比較して日本人では、大腿骨近位部骨折の発生率は低いが、椎体骨折の発生率は高いという疫学的特徴の違いがある。また、薬価や診療報酬、費用対効果の社会的な許容ラインなどの設定を含む日本の医療制度は欧米諸国のものと異なっている。こうした理由から、先行研究の結果を日本の人口集団に直接的に一般化することには課題がある。したがって、我が国における診療上・医療政策上の意思決定を支援するために、日本の保険医療・介護システムの視点から閉経後骨粗鬆症患者に対するゾレドロン酸の費用対効果を評価した。

 我々は、国内の疫学データをもとに骨粗鬆症患者の状態遷移モデルを構築し、仮想コホートにおける長期予後のシミュレーションを行った(図1)。ゾレドロン酸やアレンドロネートによる骨粗鬆症性骨折の抑制効果はネットワークメタアナリシスをもとに設定した。対象集団は、既存椎体骨折を有する日本人閉経後骨粗鬆症患者として、標準治療(カルシウム・ビタミンD補充)のみを行った場合、標準治療+3年間のゾレドロン酸5mgの年1回注射を行った場合、標準治療+3年間のアレンドロネート35mg週1回の経口投与を行った場合の生涯費用と質調整生存年(QALY:Quality adjusted life year)を推計した。QALYは患者のQOL値で重みづけした生存年のことである。シミュレーション結果に基づき、対照治療と比較したゾレドロン酸治療の増分費用効果比(ICER:Incremental cost-effectiveness ratio)を推定した。ICERは、評価治療が対照治療と比較して1QALYよくするのに追加的にいくらかかるかを示し、ICERの値が小さいほうが費用対効果に優れることを意味する。ICERの社会的な許容ラインは先行研究を参考に$50,000/QALYと設定して、推定されたICERがこれを下回る場合、費用対効果に優れると判断した。また、シナリオ分析を実施し、ゾレドロン酸やアレンドロネートの治療継続率を考慮した場合の費用対効果についても検討した。

森脇 健介
図1.骨粗鬆症の状態遷移モデル

 基本分析の結果、70歳の患者集団では、アレンドロネートと比較したゾレドロン酸の増分効果は‐0.004~-0.000、増分費用は$430~$493と推定され、ゾレドロン酸が劣位であることが明らかとなった(表1)。劣位とは、アレンドロネートと比較してゾレドロン酸の効果が小さく、費用が大きい状態を意味する。なお、治療継続率を考慮したシナリオ分析の結果、アレンドロネートと比較したゾレドロン酸のICERは、Tスコアが-2.0、-2.5、-3.0の場合において、それぞれ$47,435/QALY gained、$27,018/QALY gained、$10,749/QALY gainedと推定され、ICERの許容ラインである$50,000/QALYを下回ることが示された(表1)。また、ゾレドロン酸の1年間の治療継続率がアレンドロネートと比較して10%以上高い場合、アレンドロネートと比較したゾレドロン酸のICERは$50,000/QALY以下となることが示された(表2)。本研究では、アレンドロネートと比較してゾレドロン酸は劣位であったが、効果の差は極めて小さいことが示された。また、年1回の静脈注射であるゾレドロン酸の治療継続におけるメリットを考慮した場合、アレンドロネートと比べて費用対効果に優れることが示唆された。これらの知見は日本やアジア諸国における骨粗鬆症の診療上の意思決定を支援することが期待される。

森脇 健介
表1.費用効果分析の結果

森脇 健介
表2.1年間の治療継続率とゾレドロン酸のICER(vs アレンドロネート)の関係

著者コメント

 医療費膨張の問題に際して、骨粗鬆症の疾病対策に費用対効果の視点を組み入れることが重要となっています。近年、欧米を中心に骨粗鬆症の検診・予防・治療に関する費用効果分析の事例集積が進んでいますが、疫学的特徴や医療制度の違いを考慮すると、結果をそのまま我が国に当てはめることは必ずしも適切ではありません。本研究では、近年日本で販売が開始されたゾレドロン酸の費用対効果を、我が国の公的医療・介護システムの立場から分析しました。その結果、骨折抑制効果に加えて治療継続におけるメリットを考慮した場合、ゾレドロン酸は第一選択薬であるアレンドロネートと比べて費用対効果に優れることが示唆されました。本研究を基盤に今後、日本人における治療効果や治療継続などに関するリアルワールドデータの蓄積に応じて、様々な患者条件のもとで費用対効果の評価を行うことにより、診療上あるいは医療政策上の意思決定に資するエビデンスを提供できるものと期待しております。(神戸薬科大学 医療統計学研究室・森脇 健介)