日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 小山 元道

階層的準安定微細積層構造を有する鋼のき裂進展抵抗:骨との類似性に注目して

Bone-like crack resistance in hierarchical metastable nanolaminate steels.
著者:Koyama M, Zhang Z, Wang M, Ponge D, Raabe D, Tsuzaki K, Noguchi H, Tasan CC.
雑誌:Science. 2017 Mar 10;355(6329):1055-1057
  • 疲労き裂
  • 骨状組織
  • 合金設計

小山 元道
九州大学における共同研究者。左が野口博司教授、右が津﨑兼彰教授、中心が著者である。

論文サマリー

 本研究は、生体材料、航空機、自動車、橋など多岐にわたって問題になっている金属疲労を対象としている。より具体的には、高い疲労限(107回引張/圧縮応力を繰返し負荷しても壊れない応力振幅)および疲労限以上の高応力域での長疲労寿命を高強度鋼に兼備させるための組織設計指針を提案するものである。図1に示すように、本研究が提案する組織を有する鋼と従来鋼を比較すると、応力振幅-疲労寿命関係が大きく改善されていることが確認できる。以下、我々の成果の詳細について概説する。

 疲労現象は金属部材における破損事故の主たる原因として知られる。つまり、人の生活の安全を保障する上で最も重要な研究課題と言える。多くの場合、金属の疲労現象は疲労き裂進展に支配されるため、疲労破壊の抑制とは、疲労き裂進展の抑制を意味する。金属材料において疲労き裂進展を抑制するためには、き裂先端を膨張させてき裂面に圧縮応力を働かせることが重要である。この圧縮応力によってき裂が開口し難くなり、結果としてき裂進展の駆動力を低下させる。また、き裂面をジグザグさせることも重要である。き裂面がジグザグすれば、き裂面上の摩擦力などが大きく働き、き裂開口のためにより大きな力が必要となる。本研究では、変形誘起相変態(面心立方構造から体心立方構造への変態)させることでき裂先端の体積膨張を助長した。き裂先端で変態膨張が起こることでき裂面が圧縮され、図1低力側に示されるように疲労限が上昇する。き裂面(き裂伝ぱ経路)をジグザグにするためには、骨の構造が参考になる(図2参照)。階層的かつ層状の構造を有する骨と同様の組織を金属中に作りこむことで、き裂面をジグザグさせることに成功し、この結果、高応力域まで荷重を負荷しても試料は有意な疲労寿命を有することが明らかとなった(図1高応力側)。つまり、変態膨張をすることと、骨の構造を模擬すること、の二つを組み合わせることで、高疲労限かつ高応力での長寿命を実現したことが本研究の成果となる。

小山 元道
図1 開発鋼の疲労特性。開発鋼はMetastable&Multi-phase&Nanolaminateに対応。右上の図は縦軸を引張強度で規格していない開発鋼の応力振幅-疲労寿命関係。
“Reproduced with permission from Science 355, 1055 (2017). Copyright 2017, AAAS".

小山 元道
図2 骨と鉄鋼の内在組織の類似性。
“Reproduced with permission from Science 355, 1055 (2017). Copyright 2017, AAAS".

著者コメント

 本研究は、変態膨張を起こさせることと、き裂面をジグザグにすることの2つにポイントがあります。前者の変態膨張に関しては、金属の熱力学と速度論を基にして詳細な組織設計法が確立されています。しかし、き裂面をジグザグさせる方法については一定の指針がなく、今回は金属が”破壊”という現象を通して骨と類似のき裂面の特徴を示す点に注目しました。この二つの因子を兼備させることで、外部応力に対してロバストな材料が誕生しました。バイオミミックスは従来から注目の集まる考え方ではありますが、”鉄鋼の疲労”という古典的課題にもまだまだ未開の地を与えることが示唆されました。今後、多視点的な発想のもと、金属疲労の研究が一層の発展、進化を遂げることを願います。(九州大学工学研究院機械工学部門・小山 元道)