日本骨代謝学会

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がん細胞との直接接触が骨芽細胞配列化を阻害し、骨配向性低下をもたらす

Alteration of osteoblast arrangement via direct attack by cancer cells: New insights into bone metastasis.
著者:Kimura Y, Matsugaki A, Sekita A, Nakano T.
雑誌:Sci Rep. 2017 Mar 17;7:44824 DOI: 10.1038/srep44824
  • 骨配向性
  • がん骨転移
  • 骨芽細胞配列

松垣 あいら
写真左より著者、木村友美 大学院生、関田愛子 大学院生、中野貴由 教授(ともに大阪大学大学院工学研究科)

論文サマリー

 本論文は、がん骨転移共培養モデルを用いて、がん転移による骨配向性低下の要因が、がん細胞との直接接触による骨芽細胞配列不全であることを初めて明らかにした。

 骨は基質中に多様な増殖因子を含み、リモデリングにより極めて肥沃な環境を形成することから、肺や肝臓と並んで高頻度でがん転移が起こる組織である。がん転移骨は顕著な力学機能の低下を示し、病的骨折を引き起こす。我々はin vivoのがん転移モデルにおいて転移骨での骨配向性の顕著な低下が力学機能の低下を招くことを明らかにしている(Sekita et al., J. Struct. Biol. 2016, Bone 2017))。すなわち、がん転移による骨の脆弱化が、従来の治療指標である骨密度ではなく、骨配向性の低下によりもたらされることを見出しており、がん骨転移による骨微細構造変化のメカニズム解明は新たな創薬・がん治療に必須であると考えている。

 本論文では、溶骨性転移を誘発するB16F10(メラノーマ)、MDA-MB-231(乳がん)および造骨性転移を誘発するMDA-PCa-2b(前立腺がん)と骨芽細胞の配列化共培養モデルを構築し、転移骨における骨微細構造変化のメカニズム解明を目指した。骨芽細胞の配列化は産生骨基質の配向性を直接的かつ定量的に決定する(Matsugaki et al. J Biomed Mater Res A. 2015)。がん細胞由来の液性因子は、骨芽細胞の増殖・分化を制御した一方で、がん細胞―骨芽細胞間の直接的相互作用は、溶骨性・造骨性いずれのがん細胞においても骨芽細胞配列化を顕著に抑制した。配列低下を示す骨芽細胞では、がん細胞との間にCx43陽性のギャップジャンクションを形成しており、細胞間での情報伝達を介した細胞骨格構築システムの破綻が示唆された。以上より、がん細胞との直接接触による骨芽細胞の配列不全が骨配向性低下の要因であることが示された。

松垣 あいら
がん細胞との直接接触により、骨芽細胞配列化(矢印;基板コラーゲン配向方向)は顕著に低下する。

松垣 あいら
がん細胞との直接触による骨芽細胞配列不全が、転移骨の配向性低下をもたらす

著者コメント

 1st authorの木村さん(写真左から2番目)は本論文掲載と時を同じくして、無事に大学院博士前期課程を卒業されました。そして3rd authorの関田さん(写真左から3番目)には、がん研究を牽引して頂き、無事に博士(工学)の学位を取得されました。深刻な病態を引き起こすがん骨転移の本質理解を目指し、中野貴由教授(写真右)のご指導のもと、材料工学の立場から転移骨の微細構造変化にアプローチして参りました。著者(写真左)は中野教授のもとで学位取得後、骨の異方性を決定する細胞・タンパク・遺伝子の作用に着目し、骨配向化制御・メカニズム解明に取り組んでおります。
 本研究の遂行にあたりご指導・ご協力を賜りました先生方および研究室の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、今後も工学の立場から骨医学の発展に貢献できるよう精進していく所存です(大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻・松垣 あいら)