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歯周病におけるWnt5aとsFRP5の発現機能解析

Differential Expression and Roles of Secreted Frizzled-Related Protein 5 and the Wingless Homolog Wnt5a in Periodontitis.
著者:Maekawa et.al.
雑誌:J Dent Res. 2017 May;96(5):571-577.
  • Wnt5a
  • sFRP5
  • 炎症性骨吸収

前川 知樹

論文サマリー

 歯周炎は慢性炎症をともなう歯周結合組織や周囲骨組織の破壊を特徴とする疾患で,動脈硬化症やリウマチ関節症など全身性の疾患へも波及するといわれている。我々は,歯周炎が局所における細菌のバランスの破綻によりひき起こされ,宿主の細菌に対する過度な免疫応答により組織の重度な破壊,破骨細胞への分化,骨吸収がひき起こされることを示してきた(Maekawa et al. Cell Host Microbe 2014, Science Translational Medicine 2015)。多種の炎症性細胞がトリガーとなり歯周結合組織の破壊および骨吸収をひき起こすが,今回は,歯周病患者の歯肉に多く発現しているWnt5a分子に着目した。

 Wnt5aは,免疫組織染色にて歯肉上皮層に限局して産生が確認された(図1上)。さらにqPCRにて歯周病患者からの歯肉に健康な歯肉と比較してWnt5aの発現量の上昇が認められた。次に,Wnt5aの受容体に相同性を示すsFRP5を検索したところ,健康な歯肉には,歯周病の組織と比較し発現が上昇していた(図1下)。

前川 知樹

Wnt5aとsFRP5が歯肉上皮に限局して発現が認められたことから,健康な歯肉より歯肉上皮細胞を単離し,歯周病原性細菌であるP. gingivalisのLPSを用いた刺激培養実験を試みた。Pg-LPS刺激により,歯肉上皮細胞において,Wnt5aの遺伝子発現の上昇とsFRP5の発現の減少が認められた。さらに,LPSとWnt5a,さらに共刺激による歯肉上皮細胞からのIL-8の産生は,sFRP5を加えることにより抑制された。つまり,本in vitro実験においてsFRP5は,LPSにより産生されたWnt5aの機能を阻害すると同時に,炎症も抑制する機能があることが示唆された。

 次に,歯牙に絹糸を結紮して歯周炎を引き起こしたマウス実験的歯周炎モデルを用いて,sFRP5による炎症と骨吸収抑制能を検討した。結紮部位にFRP5を接種したところ,sFRP5により骨の吸収は抑制された(図2)。

前川 知樹

同時に,歯肉においても,sFRP5を接種した部位では,炎症性サイトカインの産生が抑制されており,骨吸収抑制を裏付ける結果となった。従って,歯周炎モデルにおいては,sFRP5の投与は歯肉局所の炎症を抑制するとともに,Wnt5aの産生の抑制と産生されたWnt5aの機能の抑制により,歯を支えている骨の吸収を抑えることが明らかになった(図3)。

前川 知樹

 今後は,sFRP5の歯周病治療薬としての可能性を検索するとともに,同様な機能をもったDel-1という生体由来の安全な抗炎症分子に着目し,Wnt5aを起点とした骨芽細胞と破骨細胞系に作動する分子群ネットワークを解明していく予定です。

著者コメント

 Del-1という内因性抗炎症分子の骨への影響を,Wnt5a-ror2との関連性に着目して実験を進めていた際に,歯肉組織にWnt5aが実際にでているのではないかと試しに染めてみたところ興味深いデータがでたことから始まった研究でした。私が,米国ペンシルベニア大学に留学中に初めて担当した修士課程の学生と一緒に行った研究です。私たちのラボでは,骨の研究を2014年にスタートしたばかりで,知識は少なく,手さぐりの状態から日夜論文をあさり,完成を目指しました。
 本研究で使用した歯周病モデルマウスは,細菌による感染があるものの,炎症と骨吸収の関連性を解明するには良好なツールであると思っています。また,フィリピンの大型サル繁殖施設におけるサルを用いた同様な歯周病モデル(自然発症型)を使用した経験がありますので,基礎的な病態解析から,分子創薬を生体で試してみたいなどのトランスレーショナルリサーチを行っている先生方やラボとの共同研究者を常時募集中です。(新潟大学大学院医歯学総合研究科高度口腔機能教育研究センター・前川 知樹)