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転写因子p63は関節軟骨細胞のアポトーシスを制御する

p63 Regulates Chondrocyte Survival in Articular Cartilage.
著者:Taniguchi Y,et.al.
雑誌:Arthritis Rheumatol. 2017 Mar;69(3):598-609.
  • p63
  • 軟骨細胞
  • 変形性関節症

谷口 優樹
左から順に谷口、田中栄教授、斎藤琢先生(コレスポ)

論文サマリー

 転写因子p63はもともとがん抑制遺伝子であるp53の相同遺伝子としてクローニングされたがその後の解析でp53と同様のアポトーシス誘導能の他に細胞老化や上皮・四肢の発生への関与など多様な機能を有することが突き止められた。そこで本研究ではp63が軟骨内骨細胞において果たす機能を解析することとした。

 p63には6つのsplicing isoformがあることが知られているため、まず最初に成長軟骨板および関節軟骨における発現を調べた所、どちらの軟骨細胞でもTAp63αとTAp63γが発現していることが判明した。そこで次にそれぞれのトランスジェニックマウス(Tg)を作成した。cre誘導性のTgマウスとして軟骨細胞特異的creマウスであるCol2a1-creマウスと交配した所、Col2a1cre-TAp63α-Tgマウスは明らかな骨格異常を呈さなかったが、Col2a1cre-TAp63γ-Tgマウスは強い成長障害を呈した(図1)。

谷口 優樹

本マウスの成長軟骨板を解析したところ、増殖層で異所性のアポトーシスを生じていることが判明し、軟骨細胞においてp63が強いアポトーシス誘導能を有していることがわかった(図2)。

谷口 優樹

しかしながら、軟骨細胞特異的なp63欠失マウスでは明らかな成長障害が見られず、成長板でのアポトーシスにも著変ないことから同様の発現パターンと作用を有するp53による代償が働いている可能性が考えられた。最後にPrx1-creマウスを用いて四肢特異的なp63欠失マウスを作成し、関節軟骨での作用を解析したところ、自然経過モデルでも変形性関節症モデルでも膝関節の変性がPrx1-cKOマウスで有意に抑制されていることが判明し、Prx1-cKOマウス関節軟骨細胞ではアポトーシスが抑制されていることが判明した(図3)。

谷口 優樹

p63を欠失しても成長板軟骨では表現型が見られなかったのに対し、関節軟骨では差が見られた一因として関節軟骨ではp53とp63の発現パターンが異なることからp53による代償が働かなかった可能性が考えられた。いずれにしても変形性関節症の進行過程における軟骨細胞のアポトーシスにおいてp63が重要な機能を有していることが本研究から判明した。変形性関節症において軟骨細胞のアポトーシスが生じることは古くから知られていたが、その分子メカニズムや意義については不明な点が多く、本研究は変形性関節症の病態の一端を解明するものである。

著者コメント

 この研究の入口は転写因子p63のノックアウトマウスが著しい四肢の低形成を来すことから、『p63が軟骨内骨化の過程において重要な機能を有しているのではないか?』という仮説で、もとの研究の方向性は発生学的な観点でした。ただ実際には軟骨特異的トランスジェニックマウスでは成長障害を呈したもののcKOマウスで明らかな骨格の異常がみられず、研究が行き詰まっていました。最終的にはp63が関節軟骨の変性過程において重要な機能を有しているということをつきとめ、なんとか形にすることができました。何度も心が折れそうになりましたが辛抱強く励ましとご指導をいただいた斎藤琢先生はじめ共著の先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。(東京大学整形外科助教・谷口 優樹)