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TOP > 1st Author > 丸山 健太

Sbno2はDC-STAMPの発現促進を介して破骨細胞融合を制御している

Strawberry notch homologue 2 regulates osteoclast fusion by enhancing the expression of DC-STAMP.
著者:Maruyama K, Uematsu S, Kondo T, Takeuchi O, Martino MM, Kawasaki T, Akira S.
雑誌:J Exp Med. 2013 Sep 23;210(10):1947-60

丸山 健太

論文サマリー

骨吸収を担う巨大多核細胞として知られる破骨細胞は、単核の破骨細胞前駆細胞が互いに融合することで形成される。今回私は破骨細胞形成過程において誘導されてくる転写調節因子Strawberry notch homologue 2 (Sbno2) が破骨細胞の正常な融合に必須であることを発見した。

元来、Sbno2はIL-10によりSTAT3依存的に誘導され、NF-kBの活性化を抑制することがレポーターアッセイにて示されていたが、個体レベルでの炎症反応における役割や生理的機能は謎に包まれていた。そこでSbno2欠損マウスを作成して解析したところ、Sbno2は炎症の活性化と細菌感染防御には関与しておらず、これまでに報告されていたようなNF-kBの抑制作用は有していないことが明らかとなった。その一方で、10週齢をこえたSbno2欠損マウスは重篤な大理石骨病を発症し、破骨細胞の形成障害が認められた(図1)。次にノックアウト由来の細胞を使ってin vitroにおけるRANKL誘導性の破骨細胞分化を検討したところ、破骨細胞あたりの核数が著明に低下していた。個々の破骨細胞の骨吸収活性と分化マーカーの発現状態は正常であったことから、この異常は融合障害に起因していると考えられた。

丸山 健太
Sbno2欠損マウスは破骨細胞融合障害に伴う大理石骨病を発症する
(A:大腿骨遠位部のCT画像、B:in vitroにおけるRANKL誘導性破骨細胞分化の様子)

そこでノックアウト由来の破骨細胞における様々な細胞融合制御遺伝子の発現状態を検討したところ、興味深いことに破骨細胞融合のマスターレギュレーターであるDC-STAMPの発現が著明に減弱しており、レトロウイルスによるDC-STAMPの導入はその融合障害を完全に救済した。さらに、Sbno2はDC-STAMPプロモーターを抑制する転写因子であるTal1と直接結合することでその活性を阻害していた。以上より、Sbno2による破骨細胞融合の促進を介したユニークな骨量制御機構が始めて明らかとなった。

丸山 健太
Sbno2は転写抑制因子Tal1の抑制を介してDC-STAMPの発現を正に制御する

超高齢化社会を迎えた日本において患者数が1000万人にのぼる骨粗鬆症の解決は緊喫の課題である。それゆえ、破骨細胞分化を抑制する骨粗鬆症治療薬の開発が現在急ピッチで進められている。しかし、そうした医薬品の多くは免疫系の撹乱作用や低Ca血症、顎骨壊死などの副作用をもつため、分化抑制を作用機序としない新たな治療薬の開発が切望されている。Sbno2が欠損した破骨細胞は分化が正常である一方で融合だけが障害され、免疫系には異常がみられなかったことから、この分子を抑制する低分子化合物の同定はより安全な次世代の骨粗鬆症治療薬の開発につながるものと期待される。

著者コメント

炎症と骨破壊を同時に制御しているような新たな関節リウマチ治療標的分子を探索する過程で発見したいわば「はずれ」の成果である。近年のリウマチ・骨粗鬆症領域では、切れ味の良い多彩な新薬が次々と保険適用され、目もくらむばかりの豪華な「究極の対症療法」のlineupが現場に装備されつつある。それ故、一研究者が嗜むレベルの遺伝学とウェットバイオロジーの力で現状を「Kaizen」させることができる可能性はますます減ってきているようにも見える。偉大な先達らの敷いたレールに乗った形での(インパクトの出やすい)遺伝学を続けつつ、より本質的に老年医療を「Kaizen」させることに繋がり得る布石を数多く打たねば将来のサイエンス継続の道が絶たれてしまうという危機感を持ちながら、今日も思索と実験に励んでいる。(免疫学フロンティア研究センター 丸山 健太)