日本骨代謝学会

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セラミドアナログPDMPはmTORC1の細胞内局在をリソソームから小胞体に変化させることによりmTORC1を阻害する

PDMP, a ceramide analogue, acts as an inhibitor of mTORC1 by inducing its translocation from lysosome to endoplasmic reticulum.
著者:Ode T, Podyma-Inoue KA, Terasawa K, Inokuchi JI, Kobayashi T, Watabe T, Izumi Y, Hara-Yokoyama M.
雑誌:Exp Cell Res. 2017 Jan 1;350(1):103-114.
  • mTORC1
  • リソソーム
  • 小胞体

大出 貴資

論文サマリー

 Mammalian/mechanistic target of rapamycin complex 1 (mTORC1) は細胞に対するさまざまシグナルを統合し、細胞の代謝が同化 (成長・増殖) に向かうか、異化に向かうかを決定する。mTORC1のキナーゼ活性は二つの条件が揃った時に初めて活性化される。一つ目はmTORC1がリソソーム膜上に存在することで、二つ目はリソソーム膜上のGTP結合タンパク質RhebがmTORC1を活性化できる状態 (GTP型) にあることである。前者は細胞の栄養状態に、後者は増殖因子のシグナルに依存する。そこで栄養状況が良好で、かつ指令を受けた時にmTORC1がリソソーム膜上で活性化されて細胞の成長・増殖のスイッチがオンになる。一方、mTORC1が不活性化されている時にはリソソームの生合成やオートファジーが亢進され異化作用が活発になる。mTORC1活性は骨芽細胞分化においても重要な役割を担うことが報告されている。

 セラミドアナログである1-phenyl-2-decanoylamino-3-morpholino-1-propanol (PDMP) はスフィンゴ糖脂質の合成阻害剤として開発されたが、リソソームや小胞体の構造にも影響を与えることが知られている。本研究では、PDMPがmTORC1の細胞内局在を変化させることでmTORC1の活性を制御する可能性に着目し、その検証を試みた。

 マウス前骨芽細胞MC3T3-E1において通常の条件下でmTORC1はリソソームに局在していたが、PDMP処理によりリソソームへの共局在率が有意に減少した。共免疫沈降法の結果、PDMP処理によりmTORC1とRhebとの相互作用が減弱した。PDMP処理細胞におけるmTORC1と小胞体の染色パターンが類似していたため、mTORC1と小胞体の共局在を観察した。その結果、PDMP処理によりmTORC1の小胞体との共局在率が有意に増加した。さらにmTORC1をリソソーム膜に動員する足場となるRagulatorの構成要素LAMTOR1も、PDMP処理によりリソソームから小胞体へと局在が変化することが判明した。これらの結果から、PDMP処理によりmTORC1がリソソームから小胞体へ移行することが示唆された。

 mTORC1の下流タンパク質であるS6Kのリン酸化を指標に解析したところ、PDMP処理によりmTORC1の活性は減少した。mTORC1の活性低下、リソソームからの解離、小胞体への移行のタイムコースは一致した。一方、PDMPで処理したMC3T3-E1細胞では、ラパマイシン処理細胞と同様に細胞増殖が有意に抑制された。アルカリフォスファターゼ染色で検討したところ、骨芽細胞分化も顕著に抑制された。PDMPの光学異性体や類似化合物を用いた解析から、これらの作用はスフィンゴ糖脂質の合成阻害に起因するものではないことを確認した。以上のことから、PDMP処理はmTORC1の細胞内局在を変化させてRhebによる活性化を抑制し、細胞増殖および骨芽細胞分化を抑制することが示唆された。本研究は細胞内局在の変化という、今までに全く知られていない作用機序によるmTORC1阻害剤の開発にもつながると期待される。

大出 貴資

大出 貴資

著者コメント

 リソソームは細胞内での分解反応を専門とするオルガネラと考えられてきましたが、近年ではmTORC1の活性調節を介して細胞の代謝の方向性を決める司令塔としての役割が注目されています。この時期に、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤であるPDMPを開発した井ノ口仁一先生(東北医科薬科大学)、PDMPがリソソームの構造を変化させることを見出した小林俊秀先生(現:フランス ストラスブール大学)との共同研究により、PDMP/リソソーム/mTORC1という新たな関連を見出すことができたのは不思議で幸運な出会いだと考えています。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野・大出 貴資)