日本骨代謝学会

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ニワトリ胚頭蓋骨中での骨細胞の分化における細胞間コミュニケーションの変化

Alternation in the gap-junctional intercellular communication capacity during the maturation ofosteocytes in the embryonic chick calvaria.
著者:Wang Z, Odagaki N, Tanaka T, Hashimoto M, Nakamura M, Hayano S, Ishihara Y, Kawanabe N, Kamioka H.
雑誌:Bone. 2016 Jun 29. pii: S8756-3282(16)30178-8.
  • 骨細胞
  • 細胞間コミュニケーション
  • ギャップジャンクション

Wang Ziyi

論文サマリー

 骨の成長の過程において、コネキシン43は主要な役割を担っており、このタンパクを介してなされるギャップ結合細胞間コミュニケーション(GJIC)は骨の代謝において非常に重要である。ギャップ結合は分子量1000以下の細胞間シグナル伝達分子の輸送を可能にする受動的なチャネルであると報告されているが、我々はこのギャップ結合を通過できる蛍光色素Calcein-AMを用いて、生骨中の骨細胞の細胞間コミュニケーションを観察し、幼弱な骨細胞と成熟した骨細胞の両者における細胞間コミュニケーションの違いを検討した。

 まず、胎生期におけるニワトリ前頭骨が一方向に一様に成長する点に着目し、骨細胞の分化と前頭骨における骨細胞の位置とを関連させた成長モデルを確立した。これにより、骨細胞の分化するに伴う、骨細胞ネットワークの形態的、機能的成熟を定量化できた。

Wang Ziyi
図1:今回の実験のフローチャート

 骨細胞ネットワーク機能の解析にはFRAP(Fluorescence recovery after photobleaching)法を用いて、骨細胞の分化による細胞間コミュニケーションの変化を検討した。この解析では、単純拡散の数学的モデルによってFRAP実験のデータを分析した。さらに、細胞内に取り込まれた蛍光色素Calceinを輸送するための骨細胞突起の拡散係数の計算を行った。その結果、幼弱な骨細胞の拡散係数(64.38%)は成熟した骨細胞のそれ(26.88%)よりも有意に大きいことが分かった。

 また、骨細胞の拡散係数のデータから、単純拡散のパターンを示すものをfitted model cellとして、またそれ以外のパターンを示すものをnon-fitted model cellとして定義し、また幼若な骨細胞(sphere-shaped cell)と成熟した骨細胞(spindle-shaped cell)における細胞間コミュニケーションを比較した。

Wang Ziyi
図2:それぞれグループにおける蛍光輝度の回復曲線

 上記のように、FRAP法によるphotobleaching後の5分間の蛍光輝度の回復度を幼若な骨細胞と成熟した骨細胞で比較すると、幼若な骨細胞の蛍光回復度が有意に大きな値を示した。これは、幼弱な骨細胞の方が成熟した骨細胞に比べてGJICの能力が高いことを示している。また、同様にfitted model cellnon-fitted model cellで比較すると、non-fitted model cellの蛍光回復度が有意に大きな値を示し、この細胞の割合が、幼弱な骨細胞と成熟した骨細胞の細胞間コミュニケーションの違いを生じていることが明らかになった。

 我々はこの論文で、GJICは骨細胞が成熟するに従って減少すること、そして、その機序は、幼弱な骨細胞の多くにみられる拡散以外の積極的な細胞間コミュニケーションが徐々にみられなくなることによって生じていることが示唆された。

著者コメント

 今回の実験で、私たちのグループは骨細胞分化における異なった段階では骨細胞突起の伝達性が異なるという結果を初めて示しました。特にGJICを介した細胞間の物質のやりとりにおいて、拡散以外のメカニズムで、しかもそれより速いやりとりがあることを示すことができました。

 私は、中国の大連医科大学から、O-NECUS制度(岡山大学の留学生交流プログラム)を利用し、岡山大学医歯薬学総合研究科歯科矯正学分野へ短期留学しました。中国では基礎研究の経験が全くなかったため、歯科矯正学分野の上岡教授から、同期である小田垣先生と一緒に実験の方法を一から教えて頂き、今回の論文を発表するに至りました。今後は、これらの現象と、骨粗鬆症をはじめとした様々な加齢変化との関係性を解明してきたいと考えています。

 私は岡山大学への短期留学後、大連医科大学にて修士課程を修了し、再び岡山大学歯科矯正学分野に大学院生として戻ってきました。今後も引き続き、骨の研究に従事していきたいと考えています。(岡山大学大学院医歯薬総合研究科矯正学・Wang Ziyi)