日本骨代謝学会

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メカニカルストレス/膝蓋下脂肪体炎症は、変形性膝関節症の独立した危険因子である

Pleiotropic Functions of High Fat Diet in the Etiology of Osteoarthritis.
著者:Asou Y, Iwata M, Ochi H, Ailixiding M, Aibibula Z, Piao J, Jin G, Hara Y, Okawa A.
雑誌:PLoS One. 2016 Sep 9;11(9):e0162794.
  • 変形性膝関節症
  • 膝蓋下脂肪体
  • 力学的負荷

麻生 義則
左から筆者、越智広樹先生、岩田宗峻先生

論文サマリー

[背景]
肥満は変形性膝関節症(OA)の危険因子ですが、その病態には様々な要因が関与すると考えられています。私たちはこれまで、高脂肪食負荷(HFD)により作成したOAモデルマウスを用いた検討によって、IPFPの肥大化に伴う炎症性サイトカイン発現の増加とOA発症の相関を示しました(PLoS One. 2013 Apr 12;8(4))。しかし高脂肪食負荷を加えたマウスは、通常食マウスと比較して体重が有意に増加することから、この系では、肥満に伴う荷重関節への力学的負荷の寄与は否定できません。今回私たちは、HFDによって誘導されるOAの発症機転における、IPFPの炎症、および力学的負荷の機能分担を検証するため、尾部懸垂モデル(TS)を用いてHFD負荷後の膝関節を病理組織学的に解析しました。

[結果]
〔組織学的評価-関節軟骨への影響〕Safranin-O染色の結果、NL+HFD群では関節軟骨表層の染色性が低下しました。関節軟骨表層の繊維化はNL+HFD群のみで認められ、TS+HFD群、ND群では認められませんでした。以上より、関節表層の繊維化には力学的負荷が大きく寄与することが明らかとなりました。

麻生 義則

〔組織学的評価-骨棘形成への影響〕骨棘面積はNL+HFDにおいてTS+HFD群よりも大きく、NL群同士、あるいはTS群同士では、HFD群においてND群より大きな骨棘が観察されました。以上より骨棘形成には力学的負荷とHFDが共に寄与していることが明らかとなりました。

麻生 義則

〔関節軟骨細胞アポトーシスへの影響〕TUNEL染色では、荷重に関わらず給餌開始8週、12週ともにNL+HFD群、TS+HFD群の関節軟骨表層の軟骨細胞アポトーシスが増加していました。この結果より力学的負荷と関係なく、HFDが関節軟骨アポトーシスを誘導することが明らかとなりました。

〔IPFPの炎症性サイトカイン、アディポカイン発現〕NamptとLeptinは力学的負荷に関係なくHFDによって増加しました。TNF-α, VEGF, IL-6はHFDによって増加しました。骨棘形成に重要なTGF-βはND群と比較してHFD群に多く発現しましたが、NL+HFDにおいてTS+HFDよりも多く発現し、TGF-βの発現量は骨棘面積と相関しました。以上より、アディポカイン発現は力学的負荷に関わらずHFDによって誘導されますが、炎症性サイトカイン発現には力学的負荷、HFDの両者が促進的に関与することが明らかとなりました。

麻生 義則

以前から私たちは、OA発生に伴いIPFPが炎症を起こすことを報告してきましたが、今回の研究により、IPFPの炎症は、体重増加による力学的負荷の増大→関節軟骨の磨耗→IPFP炎症の誘導、という経路を介するものではなく、IPFPがHFD刺激に呼応して自立的に炎症を起こした結果によるものであるということが明らかとなりました。

著者コメント

この仕事は、当時日本獣医生命科学大学の大学院生で、東京医科歯科大学整形外科にて研修を行っていた、越智広樹君、岩田宗峻君の、汗と涙の結晶です。尾椎懸垂は通常1ヶ月以内で実験終了となりますが、本研究では3ヶ月間という常識外れの長期間にわたる尾椎懸垂を行い、なおかつ日持ちのしない高脂肪食負荷を行ったため、大変手のかかる実験でした。この研究で得られた知見とノウハウは、Sirt6の欠損が、膝蓋下脂肪体の炎症を刺激して変形性膝関節症をより悪化させることを明らかにした論文(BBRC 2015 Oct 23;466(3):319-26.)、膝蓋下脂肪体中のキサンチンオキシダーゼ活性化が酸化ストレスを増加させて変形性膝関節症を誘導することを明らかにした論文(BBRC. 2016 Mar 25;472(1):26-32.)などに活かされました。(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 整形外科先端治療開発学・麻生 義則)