日本骨代謝学会

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RANKLはBach1核移行を促進しNrf2を介した抗酸化能を減弱させ、細胞内ROSシグナリングと破骨細胞分化を増強する

RANKL induces Bach1 nuclear import and attenuates Nrf2-mediated antioxidant enzymes, thereby augmenting intracellular reactive oxygen species signaling and osteoclastogenesis in mice.
著者:Kanzaki H, Shinohara F, Itohiya K, Yamaguchi Y, Katsumata Y, Matsuzawa M, Fukaya S, Miyamoto Y, Wada S, Nakamura Y.
雑誌:Journal:FASEB journal 2016. Epub 2016/11/12. doi: 10.1096/fj.201600826R. PubMed PMID: 27836987.
  • 酸化ストレス
  • Bach1
  • 抗酸化ストレス酵素

菅崎 弘幸

論文サマリー

 破骨細胞形成過程において、Reactive Oxygen Species(ROS)は細胞内シグナル伝達物質として働いていることが知られています。そこで私達は以前に、抗酸化ストレス酵素発現を制御する転写因子であるnuclear factor E2-related factor 2(Nrf2)がRANKL刺激によって核から細胞質へ排出されること、およびNrf2が抗酸化ストレス酵素発現を介して破骨細胞形成を負に制御していることを報告いたしました(J Biol Chem 2013)。しかしながらRANKL刺激によってNrf2が核から排出されるメカニズムは不明でした。

 文献的にNrf2の核内競合因子であるBTB and CNC homology 1 (Bach1)のノックアウトマウスではRANKLによる破骨細胞形成が減弱されていることが報告されておりましたが、その制御機構も不明な点が残っておりました。

 したがって本研究課題では、RANKL 刺激によってBach1が核移行し、核移行したBach1によってNrf2が阻害され抗酸化ストレス酵素群発現が減弱することでROSシグナルが増強され破骨細胞形成が促進されやすくなると仮説を立て、その検証を細胞培養実験および動物実験にて行いました。

 初めにRANKL刺激によるBach1の細胞内局在をRAW264.7cellを用いて観察しました。RANKL刺激は核内Bach1を増加させ、細胞質Bach1を減少させました。これと呼応しRANKL刺激により核内Nrf2は減少しました。

 次に、人為的なBach1核排出促進が破骨細胞形成に与える影響について観察を行いました。Bach1核排出促進方法としてクエン酸第一鉄ナトリウムと5-アミノレブリン酸の併用(SFC+ALA)を選択しました。使用した濃度においてSFC+ALAは細胞毒性を示さないことを確認後、SFC+ALAはRANKL刺激によるBach1核移行を阻害することを免疫蛍光染色およびwestern blottingにて確認いたしました。

 SFC+ALAはRAW264.7cellのみならずマウス腹腔マクロファージにおいても抗酸化ストレス酵素群発現を上昇させることをmRNA・タンパク質レベルで確認いたしました。さらにSFC+ALAはRANKL刺激による細胞内ROS上昇を減弱させました。

 破骨細胞形成への影響を確認したところ、RAW264.7cellのみならずマウス腹腔マクロファージにおいてもSFC+ALAは破骨細胞形成を阻害することができました。

 最後に、マウス頭蓋冠骨膜周囲へのLPS頻回注射によって骨破壊を惹起する系を用いてSFC+ALA によるBach1核排出促進が骨破壊を阻止できるかどうかを検証しました。マイクロCT画像およびTRAP染色組織切片どちらにおいても、Bach1核排出促進は顕著な骨破壊阻止能を示しました。

 本研究で私達は、RANKL刺激はBach1核移行を促進し、そのことがNrf2の核排出を誘導することで抗酸化ストレス酵素群発現を減弱させ、ROSによる細胞内シグナル伝達が増強されていることを明らかとしました。Bach1核排出促進が細胞培養実験および動物実験にて破骨細胞形成・骨破壊に対して顕著な抑制効果を示したことから、Bach1核排出促進は骨破壊性疾患の治療標的となり得ると考えられます。

著者コメント

 私達は以前に、RANKL刺激によってNrf2核排出が生じることを報告していましたが(J Biol Chem 2013;288(32):23009-20)、その時には明らかにできなかった「なぜRANKL刺激によってNrf2核排出が生じるのか?」についてその分子生物学的制御機構を明らかとしました。ちょっと「落ち穂拾い」的な感じもする研究ではありますが、核内におけるNrf2との競合因子であるBach1に対するアプローチも骨破壊性疾患の治療標的となりうることを示せた論文です。

 なお本研究も2006~10年の米国留学中に着想し、2010年9月の帰国後から開始した研究です。しかし帰国半年後に東日本大震災にあい、研究環境が壊滅的な被害を受けました。様々な大学・研究機関・会社から研究環境復興の御援助を、および各財団法人などから研究助成金をいただくことで、本研究を遂行することができた経緯があります。これまでにいただきました御援助・助成に篤く御礼申し上げます。(鶴見大学歯学部歯科矯正学講座・菅崎 弘幸)